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2022年5月15日、本土復帰50周年の節目を迎えた沖縄県。ResorTech Okinawaでは、沖縄の未来を見据え、先進的な取り組みを行う県内企業のトップに、これまでの50年を振り返り、そしてこれからの50年を語っていただいた。
第一弾は、復帰前にルーツを持ち、県民のソウルフードともいえる沖縄天ぷらで愛される「上間弁当天ぷら店」を展開する上間フードアンドライフ。会長・上間喜壽(うえまよしかず)氏と代表取締役社長・上間園子(うえまそのこ)氏の初のクロストーク。沖縄の飲食業界を牽引する若き経営者お二人の対談をお届けする。
今回は、お二人の目から見た将来の沖縄の姿、情報産業の姿にフォーカスする。優位性の裏に存在する危うさや大きな変化の波も、とらえ方一つで伸びしろや可能性へとその姿を変えていく。発展への歩みを進めるために必要な「あるべき姿」、そこから生まれる課題解決の必然の手段となるデジタル、情報産業を活用した先に見えてくるのはどんな景色だろうか。
沖縄のポテンシャルを生かすために必要なもの
未来の沖縄について、「とても可能性のある地域」としながらも、その恩恵を受けるためには取り組まなければならないことがある、と語るお二人。四つの要素を備えたあるべき姿の重要性、変化に対する目からうろこの考え方など、様々な示唆に富んだ視点を共有していただいた。
社長・上間園子氏(以下園子氏):50年後。生きてるよね、まだ。80歳くらい。
会長・上間喜壽氏(以下喜壽氏):日本は厳しい状況ですが、こと沖縄に関してはとても可能性があると思っているからこそ、私たちも沖縄に軸を置いて活動しています。
その理由としてまず挙げたいのは地理的な優位性。アジアに近く玄関口になる。独特の文化もあるので、観光産業は間違いなく伸びると考えています。
これを言ってしまうと元も子もないですが、放っておいても状況は良くなるでしょう。ただし、その恩恵を受けられるのは外資系企業もしくは県外企業だと思います。今のままの県内企業の品質や運営、商品・サービスの提供方法では、時代の流れに対応できないのでは、と危惧しています。
あるべき姿=目的不在では歩みを進められない
喜壽氏:あるべき姿がないことも不安です。資源はあふれていても、それを使ってどうするかが問われていない。これは経営でもよくある話で、目的不在ということなんです。
何のための活動か、何を目指すのかがはっきりしないと、目の前の課題や環境の変化への対応に終始してしまう。だから、20年、50年後の姿は具体的にイメージできず、どうしても今の延長になってしまうんです。
園子氏:私も、10年後、20年後の沖縄が想像できません。世界からの観光客数年間何万人以上を目指す、といったビジョンもないですからね。
喜壽氏:目的なしに課題は生まれません。目的と現状のギャップが課題なんです。
目的には、次の四つの要素が必要だと思っています。
- 具体的であること
- 計測可能かどうか
- 達成可能性がきちんと吟味されているか
- 首尾一貫しているか
本気で目的に向かうのであれば、達成可能かを問うシビアな作業は絶対に必要です。そうでなければ、達成しなくてもいい努力目標やスローガンになってしまいますよね。
#3-1(クロストーク動画)あるべき姿(目的)に必要な4つの要素
#3-2(クロストーク動画)経営者マインドから変わる沖縄の未来
未来を語れる沖縄に
喜壽氏:最近の沖縄は懐古主義的で、沖縄を語ろうとすると、屋根瓦、三線、方言といった過去のレイドバックになってしまっています。今を生きている沖縄の人たちが、今の沖縄を語れず、ドラマも過去から現在までしか描かれず、未来の話はできていないんです。
活力ある場所は未来の話をしますよね。沖縄は地理的優位性に加え人口も増加傾向です。未来を語りたいですね。強いリーダーシップでこの先の姿をはっきり描くと、沖縄の本来の姿、ポテンシャルを最大化した姿が出てくるのではと個人的に感じています。
いずれにせよ、沖縄は日本の他の地域と比べて非常にプレーしやすい、良くあれる可能性が高い地域だと思っています。もっとその姿を表してほしい、表されると素晴らしいなと思っています。
変化するために、経営者への働きかけは重要
喜壽氏:県内企業が時代の流れに乗るためには、経営者への働きかけが必要だと思うんですよね。経営者が変わると会社も変わるのはよくある話。時代、環境的な追い風にうまく乗るためには、沖縄のプレイヤー、経営者、働く人々、私たち自身もチューニングして、変わっていかなければならないですよね。
いつも経営者に言っているのは、変わることを楽しめるようになろうよ、無邪気な心でやろうよ、ということです。
変化を敵のように、何かを奪っていくもののようにとらえがちですが、それをネガティブなものと決めているのは自分自身なんです。
きちんと環境と向かい合い、変化の波の動きそのものにもっと興味持って見てみてほしい。私は生き生きした息遣いを感じて、美しいと感じます。
変化の波をサーフィンする
喜壽氏:変化を恐れないために必要なのは、「安定なんてない」ということに気づくこと。
常に変化するのが世界の普遍性ですよね。「変わらないものがない」という安定以外ないんですよ。逆にそういうものだと思って、それにとらわれずサーフィンすればいい。
園子氏:本当にサーフィンなんですよ、安定って。サーフボードの上に乗る感覚と一緒で、動いている波にうまく乗れれば安定なんです。
喜壽氏:周りと同じスピードで動けば、周りは止まって見えますから。
情報はシェアするもの
喜壽氏:上間天ぷらの経営を通してわかったのは、座学ベースではなく実学として体系だった経営の知識、ノウハウが沖縄にないということでした。きょうだいで飛行機に乗って県外に学びに行きましたね。これは沖縄の経営の大きなボトルネックになっていると感じ、知り合いの経営者にそのノウハウを伝えていたらコミュニティ化したという状況です。
園子氏:講座受講のため、毎月3泊4日で札幌まで通ったこともあります。事業を継いで2~3年、負債を返す道筋がある程度見えた段階で、次の目標が見えなくなり、経営とは何かを学びたいと思ったんです。異業種の経営者の方々の考え方にも触れられて、たくさんの発見がありました。
喜壽氏:沖縄は経営のレベル、経済の質では課題が多いですが、伸びしろがあるとも言えますよね。私たちが学んだことは、沖縄を良くしようとがんばっておられる企業の皆さんにきちんと届けたいと思っています。情報は偉大な人類の知恵で、シェアしてもいいことしか起こらない。遠慮なくシェアしたいですね。
これからの沖縄で情報産業が果たす役割
コロナ禍により、大きな打撃を受けた沖縄の産業。その回復を助け、今後50年の発展を促すために、情報産業はどんな役割を果たしていけるのか。情報の本質から、相互に高めあい、成長していくためのあり方が見えてくる。
情報産業は他産業の発展を支える黒子
喜壽氏:私たちもFastPick(ファストピック)(※1)を作ったりとIT企業の顔も持っていますが、主となる事業や業務がなければ出番がないんです。どこまでいっても主役にはなれません。
園子氏:そもそも、その目的にITやデジタルが必要なのか、と考えることも必要ですね。
喜壽氏:「こういうことのためにシステムを作りたい」「こういうシステムに投資したい」と相談を受けますが、話をよく聞くと、問題はそこではない場合もあるんです。それで仕事を断ったりもするんですよ(笑)。
まずは問題を定義し、現状を把握することが大切ですね。そうすれば、現代ではおのずとその解決の糸口としてITやデジタルが出てくるはずです。
例えば、会計とデジタルはすごく相性が良いですよね。IT企業は数字を集めてデータ化し、KPIをしっかり立て、どの数字を変えれば利益が出るのかきちんと検証し、再現性があり、適切な意思決定ができる。勘や経験といった属人的な能力に左右されないのがデジタルの良いところです。
そうしたところから、今後伸びていくであろう観光産業をはじめ、様々な産業の発展を支えていくことになると思います。
他産業と相互成長。お互いを高めるためにうまく使うべきもの
喜壽氏:情報は隙間を埋めていくものですよね。人と人の隙間も埋め、つなげてくれていますし、情報があることで色々なものがネットワークされていくと感じます。
情報産業がクローズアップされるのは、元々は隙間にあるものだった情報が非常に綿密に張り巡らされるテクノロジー、インターネットやデジタル技術と結びついて社会全体を覆う巨大な網になっているからです。連結が進んで、現在、その規模はどんな産業よりも巨大化しています。
だから情報産業は特別なものだ、という見方もありますが、他産業がなくなってしまうと、情報も網も必要なくなってしまうものでもあるんです。お互いにお互いを必要としているんですよね。今後の50年でお互いを高め、発展していくために、いかに情報産業を使うか、情報産業側はどうそれに応えていけるかが鍵になることは必然。そこに関してはもう絶対です。
そして閉じることなく、安定という殻にこもらずに、もっともっと勇気を出して外に向かっていけば、必ずこの島のポテンシャルを開花させた姿を見られると思っています。