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2022年5月15日、本土復帰50周年の節目を迎えた沖縄県。ResorTech Okinawaでは、沖縄の未来を見据え、先進的な取り組みを行う県内企業のトップに、これまでの50年を振り返り、そしてこれからの50年を語っていただいた。
第一弾は、復帰前にルーツを持ち、県民のソウルフードともいえる沖縄天ぷらで愛される「上間弁当天ぷら店」を展開する上間フードアンドライフ。会長・上間喜壽(うえまよしかず)氏と代表取締役社長・上間園子(うえまそのこ)氏の初のクロストーク。沖縄の飲食業界を牽引する若き経営者お二人の対談をお届けする。
上間フードアンドライフのこれまでの歩み
1968年:現会長・社長の祖父母が沖縄市ゴヤで刺身店を開業。天ぷら総菜の店として人気を博す
2002年(平成14年):暖簾分けのような形で両親が創業
2009年(平成21年):現会長・上間喜壽氏が社長就任、2億円の負債を抱える逆境から財務・業務管理等の抜本的な改革を進め業績をV字回復
2019年(平成31年):沖縄ファミリーマートでの販売開始
2021年(令和3年):上間園子氏が社長就任。継承時の財務トラブルに伴う負債を完済、売上8億円規模に成長。5年後県内30店舗展開、マザーズ上場のビジョンを掲げる
復帰前にルーツを持つ「上間天ぷら」は、倒産の危機を乗り越え、デジタルを活用した徹底的な経営改革とDXを進めてきた。「創業から味付けを変えていない」という沖縄天ぷらの調理にも当然デジタルを活用した効率化がなされていると想定していたが、 その答えは意外なものだった。
人の手が必要な調理は変えない。
その前後のプロセスはデジタル導入で大きく変えた
人の手の温かさを大事にしたい
会長・上間喜壽氏(以下喜壽氏):基本的な調理の手順は、昔から変わっていません。人の手で作る温かさも大事にしたいですし、店頭のシズル感も含めて魅力だと思っているので、大掛かりにデジタルを持ち込むことはしていません。
ただ、メニューは現在約300、オードブルには十数種類の具材が入り、特注対応で中身を差し替えたりすることも。実はプロセスがとても複雑なんです。
そうしたプロセス等調理の前後の段階、つまり品質や顧客が食に求める本質的な価値に影響がない部分はどんどん変えていきました。昔は紙で行っていた作業をデジタル化してシステムに置き換え、各部署への指示は現在ボタン一つで自動で出せるようになっています。
生産性を上げるためにはデジタルが一番の手段だった
代表取締役社長・上間園子氏
社長・上間園子氏(以下園子氏):当時の現場は本当にめちゃくちゃで、「今日は味噌おにぎり10、魚天ぷら50」という感じで、スタッフが肌感覚で作っていたんです。1店舗ならどうにかなりますが、店舗を展開するにつれ、ロスや売り逃しが出て「データに基づいて作らなければ」と思うようになりました。
何がどれだけ売れたかを把握するために、POSレジでのデータ集めからのスタートでしたね。現在はそれがすぐに見られるようになっています。
喜壽氏:すべて紙の伝票で行っていた注文受付の部分からデジタル化を始めました。
園子氏:伝票をセロハンテープで調理場に貼るんですが、油で滑ってフライヤーに落ちたり、濡れて字が消えたりして何の注文かわからなくなることも。それがデジタル化を進めるきっかけになりましたね。
園子氏:実は、各部署への指示書はまだ紙ベースなんですよ。パソコンやiPadで見る部署もありますが、年配の方が多いと紙媒体の方が見やすいことが多く効率的です。
喜壽氏:デジタルにしてしまうと逆に作業効率が落ちることもあるので、柔軟に使い分けています。
新しいツールの導入で現場が戸惑うのは当然のこと。
意図を伝え、フィードバックを聞く
喜壽氏:当初はデジタル化への不安の声もありました。でも、1カ月くらいで皆慣れるよね。
園子氏:むしろ指示通り作れば自分で考えずに済み、楽になりますからね。
喜壽氏:現場のスタッフが感じるのはITやデジタルへの抵抗感よりも、既存のオペレーションが変わることへの抵抗感だと思っています。デジタルに限らず、手順を変えることでこうした声はどうしても出てくるんです。
デジタルツール導入の際は、より良い方向性、皆がより楽になる方法を考え抜いてトライしていることをきちんと説明して、「現場で機能するかどうかフィードバックしてほしい」と話します。
園子氏:お金をかけてシステムを導入しても、ダメになってしまったケースもありますね。
喜壽氏:そう、良かれと導入したシステムが現場では機能しないこともあるので、しっかりフィードバックを聞きながら進めています。
デジタル化は経営の要
今後50年の沖縄で間違いなく必要になるデジタル化と、デジタルを使いこなし経営変革を行うDX(デジタルトランスフォーメーション)。それに取り組む企業の経営者が真っ先に考えなければならないこととは?また、先駆者であるお二人の徹底したデジタルとのかかわりから得られた「データの気配」とはどんなものだろうか。
何のためにデータが必要なのか?
喜壽氏:デジタル化の良いところはデータが取れること。でも、何のためにデータを取るかが定まっていない企業も多い印象です。
私たちがデジタル化を進めたのは、売上はもちろん、原価、棚卸、各部門のコストを逐一管理したいと考えたからです。
数字を紙で集めるのはつらいんですよ(笑)。その点デジタルならスピーディーで、自動化できる部分が多い。目的に対する手段としてデジタルを選んだのが実態です。
多くの中小企業がまだまだ丼勘定。社長が経営上の数字の大切さをしっかり理解していないと、せっかくのデジタル化が経営に生かされない。DXの前に意外に足りていないのがそこなんです。
データには365日目を通し、必要なものを取捨選択
園子氏:様々なデータを集めていますが、本当に必要なものだけを残し、使っていないものは捨てています。
喜壽氏:日々とにかくデータを見ています。全店舗の売上、客数、単価、人件費、原価、棚卸金額は週次の会議で。決算も週次で締めているので、日報で上がってくる全店舗の時間帯別客数や単価に毎日目を通すんですよ。365日、相当量のデータをずっと浴び続けているんです。
そうすると、だんだんデータの気配みたいなものを感じるようになってくる(笑)。
園子氏:「そろそろ売上が上がるな」「今週人が動くぞ」とか。
喜壽氏:数字からエラーが見えることもありますね。何か起きている、と違和感のようなものを感じる。調べてみると、うち、蛇口から油が出るんですが(笑)、その蛇口が壊れて油が出っ放しになっていたことがわかったりする。
園子氏:感じるようになりますね。仕入れのデータがおかしいとか、原価率がおかしいとか。
#1(クロストーク動画)中小企業の経営に必要なのは経営の数値化。
「経営判断に必要なデータを取るためのデジタル化は必須」
デジタル化で集めた情報があるからこそ
人の感覚が生きる
喜壽氏:以前、エラーを徹底的に仕組みやデジタルで潰そうとして、システムを究極に作り込もうとした時期がありました。そうしたら、システム任せになって創意工夫がなくなり、融通がきかず現場の運営が悪くなってしまったんですよ。
園子氏:お客様目線でなく、こちらの都合優先になってしまった。
喜壽氏:お客様は電話で注文したいのに、システムからしか注文できないというように、無機質になってしまう。そうすると年配の方は面倒に感じてリピートしない、といったことも起きますよね。
デジタルは人間の補助機能、エンパワーメントするものです。先ほどお話しした「数字から気配を感じる」といったことも、デジタルでこれだけ情報を取れるからこそ、データへの感覚が磨かれて可能になっていると思っています。
【PROFILE】
上間喜壽(うえま・よしかず)
株式会社上間フードアンドライフ代表取締役会長
U&I株式会社代表取締役社長
SCOM株式会社取締役
1985年沖縄県うるま市生まれ。法政大学経営学部卒業後、2億円の負債を抱え財務トラブルに陥った家業の立て直しのため代表に就任。就任後9年で売上を1億円から6億円に成長させ、お弁当を軸に、ケータリング、沖縄そば等事業多角化を推進。
U&I株式会社では、事業立て直しの経験から得た実践的なノウハウを、セミナー活動やマネジメントコンサルティングを通じ経営者に伝えている。沖縄の中小零細企業から大企業まで、経営戦略、マーケティング、会計、財務、ITシステム等を用いてクライアントの経営課題解決を支援する。「沖縄の企業活動を変えていく」というミッションを達成するために日々奮闘中。
上間園子(うえま・そのこ)
株式会社上間フードアンドライフ社長
U&I株式会社取締役
1986年沖縄県うるま市生まれ。東京の会計専門学校に入学するも、一年で資格を全て取得したため中退。沖縄に戻り、家業の上間弁当天ぷら店に入社、法人化により、22歳で株式会社上間フードアンドライフ副社長に就任。現場執行役員として8店舗展開のチームリーダーを担った。2019年、沖縄ファミリーマートでの天ぷら商品化に携わりプロジェクトリーダーを務め、2021年、社長に就任。
まだまだ続くクロストーク。おなじみの「ファミマでUEMA」の裏話、今後のビジョンを実現するために必要なこと、さらには求める人材像も。#2(「上間流 経営改革とDX」 失敗を乗り越え急成長、2026年のビジョン)