- 事例紹介
- IT活用
浦添市に本社を構える有限会社アミューズコーポレーション(以下、アミューズ)は、創業34年の卸売会社。全国のエステサロンのオーナー向けに美容機器や化粧品を流通させています。3年前に12名だった社員は現在21名に、取引先サロンも600から1200に倍増。2億円だった売上は先期4億円、今期5億円(見込)と業績は絶好調です。その背景には、eコマースを活用した既存業務の効率化と、飛び込み営業からSNSによるプロモーションへの顧客開拓方法の変革がありました。
他社からも手に入る商品を販売し顧客のもとに届ける卸売業の場合、沖縄という立地は県外に販路を広げる上では輸送コストやスピードの面で不利に働きがちです。ところがアミューズは、県外のサロンオーナーに「アミューズから買いたい」と指名され、全顧客に占める県外比率は3割を超えています。
その理由は、デジタルを通じて海を越えて伝わる沖縄の強み。この記事では、営業部長を務める西平寿之(にしひらとしゆき)さんのお話から、県外にも販路を拡大し、業績を伸ばすまでの様々なデジタル活用の取り組みについてお伝えします。
BEFORE & AFTER
- 売上4億円
- 取引先は1200サロンで約3割が県外
- 社員21名
- 社員のモデル年収40%以上アップ
- 新規顧客の開拓はInstagramとYouTube
- 受注はeコマースに集約
電話・LINEでの受注を全廃し時間を捻出
アミューズが取り組んだ改善の中で、直接的にも間接的にも大きな効果を上げたのが、受注窓口をeコマースに集約することです。
それまでの受注窓口は営業スタッフの電話や個人LINEで24時間365日対応。
休日に注文が入ると「週明けすぐに対応しなければ」と気が急いていたそうですが、受注の窓口をeコマースに一本化したことでこうしたことがなくなり、「休日に休めるようになった」と従業員満足度が向上した、と営業部長の西平さんは語ります。
「注文完了後の画面から使い方の解説動画へのアクセスを促し、容量や成分もeコマースの商品ページに掲載。お客様が必要とする情報をウェブ上に用意しておくことで、問い合わせへの対応も必要なくなりました」(西平さん)
その結果、有給休暇消化率は100%になり、西平さん自身も家族と過ごす時間が増えたと実感。改革を始めてからの3年間で離職した社員はゼロです。
「取り扱っている約1000のアイテムをeコマースに載せる作業は大変でしたが、営業担当者みんなに割り振って期日を決め、2~3ヶ月でやり切りました」
大きな効果を上げているeコマースへの集約ですが、その始まりは、自社社員の持つ能力を発掘したことでした。
「仕切ってくれたのは、元は営業として入社した社員です。パソコンを使ったドキュメント制作が速かった彼がウェブ業界出身とわかったので、営業からスイッチしました」(西平さん)
ウェブ担当に抜擢された仲程さんは、さまざまなeコマース構築運営クラウドシステムの比較検討を主導し、現在ではeコマース画面の編集やYouTubeの撮影・編集を一人でこなしています。
「eコマースのシステムを触る営業担当者のITリテラシーは人それぞれです。管理画面のシンプルさと多機能性は反比例するため、ITが苦手な社員も少し頑張って慣れれば触れる、中程度の機能が搭載されたサービスを選びました」(仲程さん)
eコマース化した後は商品紹介ページを工夫し、サイトへの来訪から購入につながりやすいコンテンツ構成の成功パターンを見出したそうです。
「まずは無料のサイト分析ツールを活用し、顧客がどんなデバイスを利用してアクセスしているかを確かめました。9割がスマートフォンからのアクセスだったので、縦画面でスクロールされることを前提に写真や文章を並べています。
商品名とキャッチコピーの順番を入れ替えるだけでも、ページへのアクセス数や滞在時間、購入率が劇的に変わります。YouTube動画を埋め込むなど色々試した結果、今の構成に落ち着きました」(仲程さん)
eコマース化のタイミングで自社配送から配送業者への委託に切り替え、配送、売掛金の回収に使われていた営業担当者の時間が大幅に削減できました。浮いたリソースをSNS発信や動画コンテンツ作りに振り向けたことで、大きな成果につなげることができました。
顔を見せるコミュニケーションが効いた。商品解説をYouTubeで
eコマースに受注窓口を集約したことと並んで時間の捻出に奏功したのが、SNS発信で飛び込み営業と商品説明を代替したことです。
アミューズのYouTubeチャンネルには、社員が美容機器・化粧品の特徴や使い方を解説する動画が並んでいます。また、TikTokでは西平さんをはじめとする社員同士のユーモアあふれるやり取りが配信され、オフィスを覗き見ているような楽しさが。これらはすべて、社員が出演し、会社の事務所で撮影したものです。
「県外の方の多くは沖縄を好きでいてくださっています。南の島の小さな美容商社の社員が、顔を見せて自分の言葉で朗らかに商品のメリットや上手な使い方を語っている。その姿に裏表のなさや人間性を感じ、購入してくださるんです」(西平さん)
YouTubeへの主な流入経路となっているInstagramでは、社員が楽しく働いている様子を伝えることを意識しているそう。以前の顧客開拓ルートだった飛び込み営業と比較すると、同じように顔を見せられるだけでなく、一度オンラインに乗せればどこからでも何度でも視聴できるため、はるかにコストパフォーマンスの高い手法です。
「商品だけでなく自分自身を売り込むのは営業の基本中の基本ですが、ガソリン代を使ってサロンを回り、買ってくれるかどうかわからないオーナーに営業したり、オーナーの都合に合わせて営業車で待機したり、同じ内容を何度も話したりするのは時間がもったいない。その時間と人のリソースを、みんなで動画の内容を考え、撮影・編集する時間にあてた方が賢明だと判断しました」(西平さん)
初めは西平さん自身が飛び込み営業のかたわら個人アカウントを開設し投稿を開始。契約につながる顧客接点を得られると確信したことから飛び込み営業をすべてSNSで代替することに。投稿を続けるうちに問い合わせのダイレクトメッセージが届くようになり、数百万円の美容機器がInstagram経由で売れた経験も後押しになりました。
理想の顧客像は開業準備中のサロンオーナー。経営ノウハウも提供
SNSでの集客が成功している背景には、顧客像を明確にした戦略があります。
「我々のターゲットは、開業の準備を始め、美容機器や化粧品を選定して買い揃えようとしているサロンオーナー。このタイミングには、集客方法や将来の事業計画など、考えることがたくさんあります。私たちは、そうした情報ニーズに応えるコンテンツも意図的に配信して競合他社と差別化しているんです」(西平さん)
対面営業の蓄積で「刺さる言葉」を知っている優位性を生かし、「美容機器や化粧品をアミューズから買ってもらうこと」ではなく「サロンオーナーが儲かること」をゴールにした情報発信が顧客の心を掴んでいます。
「どんな情報にニーズがあるか、SNSアカウントを開設した当初はわかりませんでした。ですが、毎日色々な角度から投稿しているうちに、フォロワーの増え方やハートの数、プロフィール部分のショップURLクリック回数などから、ウケる投稿とそうでない投稿が明確にわかるようになっていきました」(西平さん)
開設当初は、見込み顧客となり得るユーザーを集めるために、多くのフォロワーを持つ仕入れ先メーカーとコラボレーションしてライブ配信するなどの工夫もしたそう。
また、オンライン会議ツールを使って成功しているサロンオーナーの事例紹介セミナーや個別相談への対応など、経営ノウハウの継続的なニーズに応えることでLTV(※)の向上も実現させています。
「顧客接点にInstagramとTikTokを選んだのも、顧客像ありきの選択です。反応が早いので、狙った顧客に刺さるコンテンツがどんなものか試行錯誤がしやすく、コンテンツを軸に顧客ニーズを掴んでサービスに素早く反映させられる優れたツールです」(西平さん)
さらには、フォローし合うことで継続的にアミューズに意識を向けてもらえるため、リピート購入増にもつながります。
※LTV:LifeTimeValueライフタイムバリューの意。「顧客生涯価値」とも呼ばれ、特定の顧客から生涯にわたって得られる利益を指す
社内の業務や書類管理もデジタル化。属人性を減らし生産性を向上
アミューズでは社内の情報共有にもデジタルツールを導入し、業務効率化を図りました。受発注の記録や社員のスケジュール、日報を紙からデジタルに移行したことで、誰でも、いつでも、どこからでも必要な情報にアクセスできるように。社内情報へのアクセスを容易にしたことは、社員のモチベーションの向上にもつながりました。
「必要な書類が見つからず休んでいる社員に連絡する、退職者が担当していた書類を探すといったことが度々あったのですが、こうしたストレスやタイムロスが一切なくなりました。また、社長以下、営業部長である私も含めて社員全員の給与やインセンティブの金額もデジタルツール上に公開しています。全員の日報とそれに対する社長からの毎日のフィードバックも同様です。デジタルを活用して情報の透明性を高めることで、切磋琢磨し合って業績を伸ばす気運が生まれました」(西平さん)
西平さんは、デジタル活用の成功要因を「いい人材に任せたこと」と振り返ります。営業として入社した仲程さんのITリテラシーの高さを発見し、一任したことでスピーディに改革が進んだそう。
任せられた仲程さんは「(低コストの)デジタル化に失敗はない」と言い切ります。
「ウェブやデジタル、ITの業界には種類も量も膨大なツールやノウハウが存在するので、それを網羅できる人はいないと思った方がいいと思います。勉強して全部わかってからやろうとすると、いつまでたってもできません。ツールは、基本的には全部簡単にできるように作られているので、やってみたらいいと思います。
アミューズでは、僕が『やります』と宣言したら部長も社長もGOサインを出してくれて、どんどん進めることができました」
新たな販路開拓や業績拡大、県外進出の糸口は、自社にすでにあるもので、新しいことに挑戦する中にあるのかもしれません。