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【写真左より】
琉球通運航空株式会社 営業統括部課長・高良勇太氏
株式会社Noah’s Ark 代表取締役・関屋安莉氏
株式会社Noah’s Ark 取締役・関屋春花氏
富士通Japan株式会社クロスインダストリービジネス本部 地域活性化ビジネス企画推進 マネージャー・辻一磨氏
第1弾では、株式会社琉球通運航空の社内におけるDXの取り組みと、それを支えるDX人材の育成について紹介した。
琉球通運航空の強みは、長年にわたり培ってきた生産者との深い関係と、流通先の物流ネットワークを持っていること。この2つが“沖縄サプライチェーン”構築のカギを握っている。
今回は、琉球通運航空の高良勇太氏に加えて株式会社Noah’s Ark 代表取締役・関屋安莉氏、同社取締役・関屋春花氏、富士通Japan株式会社の辻一磨氏を迎え、“沖縄サプライチェーン”構築に向けた現状と今後について話を聞いた。

(第3部)ITと情報を武器に沖縄の生産者をサポート

沖縄の農林水産業DXがいよいよスタート

高良勇太氏(以下、高良氏):琉球通運航空のDX推進で特にこだわっているのが、生産者から消費者までのサプライチェーン(※1)を物流の側面からつなぐこと。弊社は創業当初から花卉(かき、※2)などの生鮮貨物の物流に力を入れてきました。現在、花卉の航空輸送における県内シェアは60%以上。特に、3月と12月のお彼岸のシーズンは、貨物専用機で1回約2,000ケースの電照菊を輸送、積み込み作業は社長も含めて社員総出で手伝います(笑)。

高良勇太氏

高良氏:弊社が現在に至るまでには創業時の社員たちの並々ならぬ努力、苦労がありました。県内では当時、「採算が合わない」とほかの物流会社に断られていた北部花卉園芸組合様(現在のうるま市石川周辺)への集荷・輸送を手掛けたこともあります。また、交流を深めるべく新年会やゴルフコンペを企画し、社員一人一人が時間をかけて生産者とつながり、信頼関係を築いてきました。“モノを運ぶだけではない”琉球通運航空の歴史はここから始まっています。

花卉出荷作業

高良氏:花卉のみならず鮮魚や野菜といった生鮮輸送全般に特化し、お客様と二人三脚で沖縄の物流を担ってきましたが、最近は水産業生産者と新たな取り組みを始めています。そのきっかけとなったのは、糸満市の姉妹が事業化に踏み切った“かりゆしキンメ(※3)”との出合いでした。

※1サプライチェーン=「サプライ=供給」が「チェーン=連鎖」していくということからできた言葉。生産者や製造者が原材料や部品を調達するところから、製造、在庫管理、輸送(配送)、販売、消費先に届くまでの全体の流れのこと
※2花卉=観賞に用いられる美しい花をつける植物の総称

※3かりゆしキンメ
=久米島沖など沖縄近海で獲れ、糸満で水揚げされる高品質のキンメダイ。糸満漁協に属する第八新漁丸船長・新垣哲二氏が命名し、株式会社Noah’s Arkがブランディング、販売を担う。糸満市の「食工房まほろば」ではかりゆしキンメの魚汁や煮付け、水揚げの日には刺身定食も提供している

 

 “かりゆしキンメ”をきっかけに糸満を盛り上げたい

関屋安莉氏(以下、安莉氏):父の仕事は漁師さんとのつながりが強く、小さな頃から魚は身近なものでした。新鮮な魚をいつでも食べられる環境で育ってきたんです。コロナ禍で飲食店での消費量が落ち、魚が売れず漁師さんが苦しんでいると聞き、頭をよぎったのは「何とかして漁師さんたちを助けなければ、大好きな沖縄の魚が食べられなくなる!」という思い。株式会社Noah’s Arkは、そんな個人的な思いから妹と立ち上げた会社です。

関屋春花氏(以下、春花氏):2021年1月の会社の立ち上げと同時期に出会ったのが、かりゆしキンメの命名者でもある第八新漁丸(しんりょうまる)の新垣(あらかき)船長。かりゆしキンメは脂乗りが良く、歯ごたえと甘みを楽しめる刺身にはもちろんのこと、加熱するとふわふわの食感になり、焼いたり揚げたりといった調理にも向いています。品質が高く希少価値があり、間違いなくブランド化して県内外に売り出せる。これをきっかけに、糸満の漁業を盛り上げられるのでは、と考えました。

かりゆしキンメ

春花氏:かりゆしキンメの本格的な漁が始まったのは、今から3年ほど前。かりゆしキンメは静岡の伊豆や千葉の銚子のキンメダイの3倍近く深い600〜800mを回遊しています。広大な海でキンメの魚群を探し出し、潮目を読んで深海に向けて一本釣りの糸を落とすため、鋭い勘も経験も必要とされる難易度の高い漁なんです。現在かりゆしキンメ漁ができるのは第八新漁丸だけ。新垣船長が仲間たちに漁のノウハウを教えている真っ最中です。

関屋安莉氏

安莉氏: 2021年5月に糸満漁協のセリ参加資格を取得し、かりゆしキンメの適正価格での購入をスタート。糸満市のふるさと納税返礼品へのエントリーを第一歩に、少しずつ認知度を広げていきました。琉球通運航空の高良さん、富士通Japanの辻さんとは、ふるさと納税返礼品へのエントリーがきっかけとなって、知り合ったんです。

沖縄の鮮魚の課題と今後の可能性

安莉氏:高良さんとの出会いを機に、2021年9月から琉球通運航空さんの航空輸送により、かりゆしキンメが東京の豊洲市場(東京都中央卸売市)に届けられるようになりました。

春花氏:琉球通運航空さん、富士通Japanさんとの出会いで一番実感しているのは、ネットワークの広がり。皆さんのご協力で、先日、豊洲市場や太田市場(東京都中央卸売市場)、東京の物流会社さんの視察ツアーも組んでいただきました。

関屋春花氏

安莉氏:視察で感じたのは、悔しさと可能性でした。他地域のブランド力のある魚は、輸送時に箱が少し欠けただけでもクレームが入ります。一方、沖縄の魚は輸送状態や品質に問題があっても何のフィードバックもありません。沖縄の魚は価値が低いと思われ、期待されていない証拠です。「沖縄の魚はこの程度」と思われている現実を目の当たりにし、とても悔しい思いをしました。

安莉氏:でも、それは言い換えれば伸びしろがたくさんあるということ。さらに、「丁寧に梱包し品質を保って輸送されているとその気持ちに応えたくなる」という声もあり、物流会社との連携を含め、まだまだブランディングを進める余地がある、と思いを新たにできました。

“沖縄サプライチェーン”のいま

春花氏:物流会社とつながることで流通先の声を聞けることは大きな発見でした。最も良い状態で流通先に届けるために、梱包方法や輸送体制のアイデア出しやお互いの持っているノウハウの反映ができれば、もっともっと可能性は広がると思っています。

辻一磨氏(以下、辻氏):どんなに良いものでも、サプライチェーンがしっかりしていなければブランディングはできません。輸送に時間とコストがかかる海に囲まれた県であること、さらに魚に対するあまり良くない先入観というハンデが沖縄にはあります。それを跳ね返せるよう琉球通運航空さんが輸送面の品質管理を行い、私たちは要所要所でデジタル化を進め、生産者の思いやストーリーを伝える仕組みを作る。これが、私たちが取り組む沖縄サプライチェーンDXの入口です。

辻氏:生産者から市場、販売先までの情報を一気通貫するデジタル基盤を、三つのステップに分けて構築中です。第一ステップではクラウド型物流システムとマテハン機器(※1)導入により物流側の業務効率化を実現。第二ステップでは、産地からの情報をタブレットからエントリーすることで、物流側にタイムリーに情報を伝達し、質の高い輸送を実現させます。第三ステップでは、船上でフィッシュアナライザー(※2)により測定されたデータを流通(仲卸やECなど)側と共有することで「売り手と買い手のニーズマッチング」を実現。鮮魚の価値を高く保ち、フードロス削減にもつながるSDGsなサプライチェーンを目指します。

辻氏:沖縄と本土では魚の嗜好が異なるため、物流システムに蓄積した市場別出荷データ分析を実施し、数値に基づくニーズ別マーケティングなど、更に細分化された付加価値を創出できればと考えています。

辻一磨氏

安莉氏:2021年度は鮮度判定がしっかりできるレベルまで研究を進め、2022年度以降はまだ解明されていないかりゆしキンメの生態の研究を進める予定です。脂の乗る時期、うま味が出る時期などを見極め、ニーズに合わせてベストな状態で届けられるようになれば、さらなるブランド化、差別化につながります。

辻氏:サプライチェーンの出口、消費者へのアプローチも支援していく予定です。Noah’s Arkさん、琉球通運航空さんとも連携し、デジタル化の取り組みをFacebookやインスタグラムといったSNSやDXイベントなどで積極的に発信します。また、ミーバイ(ハタ)で同様のアプローチをしている琉球大学との産学連携によるかりゆしキンメの成分分析に加え、マーケティング面でも共通のニーズを把握し、沖縄県産水産物の価値向上の可能性をさらに広げていきたいですね。

※1 マテハン機器=物流業務を効率化するために用いられる作業機械の総称で、流通通運航空においては自動ソーターやウエイトチェッカーなどが導入される
※2 フィッシュアナライザー=兵庫県明石市の老舗計量器メーカー「大和製衡(やまとせいこう)が開発した魚の「鮮度」と「脂乗り」の測定装置。機器に取り付けられた電極を背びれに5秒当てるだけで測定が可能。

生産者と消費者をつなぐことで見えてくる未来

高良氏:生産者から消費者までのサプライチェーンを構築することで、消費者の嗜好や地域性といったマーケット情報を生産者にフィードバックし、消費者のニーズにマッチした商品を提供できる好循環が生まれます。

高良氏:かりゆしキンメは、冷凍・保管技術のアップデートにより、ベストな品質、ベストな部位を出荷できる体制を築き、物流の側面からコントロールできれば、まだまだ付加価値を上げることができると思います。花卉では東京、大阪、福岡の市場がメインでしたが、福岡以外の九州エリアや日本海側の市場も、今後、沖縄の花卉を流通させることで新たな付加価値を作り出すことができると思います。青果に関しても、本島や離島の魅力ある生産者と連携し、県外の卸市場との連携強化などを積極的に仕掛けていく予定です。ワンストップのサプライチェーンを構築することで、生産者、消費者ともに三方よしの関係を築き、沖縄の農林水産DXを進め、盛り上げていきたいと思います。

【PROFILE】
社名:株式会社琉球通運航空
住所:沖縄県豊見城市字豊崎3-26
設立:1970年7月2日
役員:代表取締役会長 新垣直人
代表取締役社長 関孝治

社名:株式会社Noah’s Ark
住所:沖縄県糸満市字糸満2228
設立:2021年1月14日
役員:代表取締役・関屋安莉
取締役・関屋春花

社名:富士通Japan株式会社
住所:東京都港区東新橋1-5-2(汐留シティセンター)
設立:1947年4月23日
役員:代表取締役社長・砂田敬之

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