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医療×ITで沖縄社会はどう変わるか 沖縄県立中部病院 感染症内科 地域ケア科・高山義浩医師インタビュー
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アフターコロナに向け、あらゆる企業がITやアプリを活用して接触や三密の回避に取り組んでいる。あらゆる感染対策が取り組まれている最中だが、今後実際に観光客が訪れるようになった際、気になるのは「何かあった時にどうするか」という点だ。
今後の医療体制の変化やアフターコロナ時代にITと医療はどのように連携を図っていくのかなど、リゾートの観点も織り交ぜながら沖縄県立中部病院 感染症内科 地域ケア科・高山義浩(たかやまよしひろ)医師に話をうかがった。
アフターコロナで変化していくべき沖縄観光
一昔前に比べるとITのインターフェイスがかなりフレンドリーになったと感じています。高齢者でも直感的に利用できるように作られていますし、血圧や血中酸素を測れるアプリなども誕生していますよね。今後はそういったITツールを活用することで、僕たち医師は患者さんの生活をより支えやすくなると思っています。
これまでは病院に足を運び、医師に会うところからしかソリューションに至りませんでした。ですが、これからはアプリやオンラインで必要な時に必要な診療が受けられる体制へと進化していくでしょう。このことは、観光客が多い沖縄県にとって大きなメリットとなるはずです。
旅行中の体調不良への対応は、その具体例です。実は、新型コロナウイルスが発生する前から、沖縄では救急車が年間200回も那覇空港に出動しています。長時間のフライトは高齢者にとっては大きなストレスですし、旅行が始まってからも慣れない環境で体調を崩す方も少なくありません。
こんなとき、病院の救急外来で長時間待たされることを考えると、時間が限られている旅行を台無しにしたくないと躊躇する人も少なくありません。体調が悪くても我慢して、さらに悪化させてしまう人もいます。アプリの活用が進めば、わざわざ病院に行かなくてもその場で脈や体温を図り、AIが「少し涼しい部屋で休みましょう」「水分を補給しましょう」、もちろんいざという時には「病院に行きましょう」とアナウンスしてくれる。そうなれば旅行中の貴重な時間を有効に使うことができますし、僕たち医者も本当に診るべき人を優先することができます。
僕は、コロナ禍をきっかけとして、多くの人が観光客の健康問題に関心を持ったのは良いことだと思っています。実際、那覇空港内に「旅行者用専用相談センター(TACO)」が立ち上がりましたよね。コロナが終息したらセンターを閉じるのではなく、大事なのは今後。観光で訪れた人の体調不良にすぐ対応できる環境を継続することです。
沖縄に観光で訪れた人に「旅行中に体調不良になったけれど、沖縄の医療サービスは先進的だし、確かだった」と言ってもらえるようになれば、私たちははじめて「コロナと戦ってよかったね」と言えるのではないでしょうか。
医療は常にテクノロジーと共に成長してきたが、一方で人間にしかできない役割もある
患者を治療できるようになったのは、せいぜい20世紀になってからのことです。麻酔や消毒ができるようになって、まともな外科治療ができるようになったのも、レントゲンや心電図などを用いて各種医療機器で診断ができるようになったのも、採血して生化学検査ができるようになったのも、顕微鏡で覗いて白血球数をカウントできるようになったのも、このたった数十年の出来事にすぎません。それまで医師がやっていたことと言えば、解熱、鎮痛、鎮咳、去痰、強心、利尿といった対症療法で、患者が自ら治ろうとするのを少し手助けしていただけでした。
医療は常にテクノロジーと歩調を合わせて進化してきました。これからもITの進化とともに、連携を図っていくことになるでしょう。ただし、忘れてはいけないのは「治すだけが医療ではない」と医師も患者も理解することです。技術を過信するのではなく、使いこなすことが大事です。
医師の倫理・任務についての宣誓に「ヒポクラテスの誓い」というものがあります。これは「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスの弟子への教えとして伝えられており、現代の医学生たちにとっても大切な学びがあります。
ヒポクラテスは、医療で一番大切なことはクリニコスκλινικόςであると弟子に示したそうです。「病人の枕元で話を聞くこと」という意味でした。その後、この言葉はクリニックclinicとなり、明治の先人は「臨床」と訳しました。素晴らしい翻訳ですね。ITがどれだけ進化しても「臨床」は人間にしかできない。それを医師ひとりひとりがしっかりと理解することが大事です。
医療、介護現場でのIT活用
現在、沖縄でもITが活用されている事例としては、離島にいる駐在医師へのサポートがあります。沖縄の離島診療所には医師が駐在していますが、離島医師って孤独なんですよ。そのような臨床の最前線にいる医師に対し、オンラインで顔を合わせて適切なサポートができるというのは大きいです。(PCを介して専門医に相談できるコンサルテーションシステムやテレビ会議システム)
今後、ITに期待したいことは介護の分野での活用促進です。離島ではケアマネージャーが不在の島も多くあり、役場で働く人がケアプランを作成したり、高齢者が高齢者の介護をしている現状が多くみられるのですが、そこにITとロボットがうまく融合すれば、遠隔での介護支援が可能となるでしょう。
離島だけでなく高齢化が進んでいる今、介護は離島だけじゃなく沖縄県全体、もちろん日本全体の課題になってきます。そして、今後は外国人介護者を迎え入れることが重要になってきました。そこにもITの役割に期待されます。たとえば、「自動翻訳システム」ですね。
お隣の台湾では、外国人介護者のアウトソースに成功しています。70万人の要介護高齢者に対し、27万人の外国人介護労働者が対応しているそうです。台湾もまた急速な高齢化を迎えていますが、台湾政府は迅速な判断をしました。「介護は、外国人材との協働でやる」ことです。
沖縄や日本がどこに向かうかは分かりませんが、いま、世界中で介護労働力の奪い合いが始まっています。大切なことは外国人の働きやすい労働環境を整備することです。とくに言語の障壁がありますが、日本は、なぜか外国人労働者に日本語の読み書きまで求めてしまいます。そんなことでは、どんどん需要が高まるなか、外国人介護者は日本には来てくれないでしょう。
たとえば、その日の報告書は母国語で書けばいいはずです。自動翻訳システムを使えば、互いの言語で読むことができます。もちろん、リアルタイムの会話も瞬時に変換される時代になってきました。そういうITを使いこなすことなく、いまだに障壁を労働者の「努力」に求めているようでは先がありません。
医学がそうしてきたように、これからもITの進化を上手に取り込んで社会を成長させていかなければなりません。異文化との交流など難しい局面ほど、ITが解決すべき課題なのかもしれません。もちろん、私たち自身のライフスタイルも変えていくべきところは、変えていきましょう。うまく乗れると沖縄社会が大きく飛躍できるチャンスでもあります。わくわくする未来が待っています。