- 事例紹介
- IT活用
BEFORE & AFTER
- システム導入で予約から確認メール送信・請求書発行までをほぼ自動化。予約状況はリアルタイムに更新され、利用者登録を行えば2回目以降オンライン予約が可能に。電話問い合わせは激減し、SNS投稿なども行いながら1名で対応可能に
私たちの身近にある公共スポーツ施設は、住民の生活に寄り添って長年運営されていますが、その管理は紙ベースであることも少なくありません。
近年、デジタルツールをうまく活用することで、管理の手間と時間を削減し、利用者にとってより便利なものに変えていこうとする取り組みも進み始めています。
そうした取り組みを実施する施設の一つが、豊見城市にある沖縄空手会館です。FAXや直接来館のみで受け付けていた利用予約をオンラインでも可能にし、管理の効率化はもちろん利用者の利便性も向上させるデジタル化の取り組みについて、沖縄空手会館のスタッフである長堂綾(ながどうあや)さん、大城貢(おおしろみつぐ)さんにお話を伺いました。
リアルタイムの予約状況を求め、数分おきに電話が鳴る
沖縄空手会館は「沖縄空手を独自の文化として保存・継承・発展させるとともに、『空手発祥の地・沖縄』を国内外に発信し、空手の真髄を学ぶ拠点」として2017年に開館。競技コート4面、380の客席を備えた道場や鍛錬室、研修室や会議室も備え、空手はもちろん大小様々なイベントの場として利用されています。
開館当初、施設利用の予約受付は紙、メール、FAX、直接来館のみで行われていました。管理側にはシステムが導入されていましたが、窓口で対応した職員が入力しなければならず、入力ミスやダブルブッキングも頻発。電話もひっきりなしに鳴っていましたが、「その大半は予約状況の確認だった」と、当時の状況を知る大城さんは語ります。
沖縄空手会館の大城貢さん、長堂綾さん
「月ごとの予約状況は当時のホームページ上でも公開していましたが、手集計だったこともあり更新は週1回。『リアルタイムの空き状況ですか』『○日は空いていますか』といった問い合わせが数分ごとにかかってきて、窓口に一人、電話に一人担当を置かなければなりませんでした」
その他、月ごと、週ごとの利用予定表も手作業で出力。利用料の入金有無も申請書への手書きで管理しており、転記ミスなどが課題となっていました。さらに、残業もあたりまえのように発生していたそうです。
転機となったのは、2020年4月に沖縄空手会館の指定管理が沖縄空手進振興ビジョン推進パートナーズになったことでした。公共施設向け予約管理のSPMクラウドシステムを導入し、予約管理などにデジタルツールを積極的に活用し始めたのです。
ウェブでの空き状況確認・予約を可能に。電話は1日数件まで激減
2020年4月当時はコロナ禍真っ只中で臨時休館が続いていました。そうした中でも、まずはホームページにリアルタイムの予約状況を公開できるような形を整えます。
そして、コロナウイルス感染状況が落ち着き、開館が可能になった2021年7月にはオンライン予約機能を実装しました。
「利用当日の指示系統の混乱を防ぐため、初めてご利用いただく場合は本人確認も兼ねて直接来館での利用者登録をお願いし、2回目以降はオンラインからの予約が可能になります。遠隔地からの申込の場合はメールなどでやりとりし、当日書類を確認する形で対応中です。
システム上で担当者が承認するまで予約は確定しませんが、ホームページ上の予約状況には即反映されるためダブルブッキングも防げます」(長堂さん)
ウェブで公開されている予約状況。利用登録なしでも確認できる
予約状況に次いで問い合わせが多かった付属設備や備品についても、ホームページ上に写真付の説明を掲載し、予約ルートに組み込むことで、電話問い合わせは1日10件未満にまで減少しました。
一方で、利用者には高齢の方も多く、スマホやパソコンの操作を負担に感じる場合があるため、直接来館による申請書提出、メールやFAXでの予約も受け付けていると長堂さんは話します。
「電話で問い合わせがあっても、オンライン予約を案内することでご利用いただける場合もあります。もちろんメールやFAXでも受け付けますし、直接来館の場合は一緒にスマホを操作することも。そうした対応をしていても、受付業務は一人で事足りるようになりました。
お客様からも『とても便利になった』というお声をいただき、県外や若いお客様からの利用申込も増えていると感じます」
丁寧なサービスと効率化を両立し、利便性の向上により利用者増にもつながるだけでなく、デジタル化のメリットは働いているスタッフにも及んでいます。
予約後の作業も自動化してストレス軽減、残業はほとんどゼロに
ウェブからの予約申込はシステムに即反映され、担当者が内容を確認して承認を押せば、利用者へのメールや重要事項確認書類、請求書が自動で作成・送信されます。転記ミスやダブルブッキングはゼロになり、アナログ受付ならではの困りごとも解消されたそうです。
「来館とFAX、メールの時間が重なることもよく起こり、どの予約を優先するか非常に迷う場面も多かったんです。それがなくなり、受付担当のストレスが激減した点も地味ですが大きな変化でした」(長堂さん)
また、施設別の月間・週ごとの利用予定表も出力可能になり、利用状況を簡単に一覧できるように。
沖縄空手会館では、空手に関する様々な資料を集めた資料室の管理、結び昆布を黒帯に見立てた空手そばを提供するカフェの運営も行っているため、シフト管理も複雑です。翌月の予約状況や過去データを容易に参照できるようになり、効率的で無駄のないシフト組みも可能になりました。
大城さんが「紙の管理に追われ、処理が追いつかなかった業務が大きく変わった」と振り返るとおり、毎日のように必要だった残業はほとんどゼロに。そうして浮いた時間と人手は、情報発信や新事業の展開へと振り向けられました。
SNSでの情報発信、オリジナル商品開発で利用者と売上を拡大
電話対応に時間を取られなくなり、その後の作業の自動化でミスも大幅に減ったことで、空手会館ではSNS投稿、ホームページ更新による情報発信に力を割けるようになりました。
以前はTwitterのみの運用で更新も月1回でしたが、2020年にInstagramとFacebookを開設。3つのSNSを連携させ、ほぼ毎日更新しています。Instagramのフォロワー数は1700人以上。さらに、2021年からは公式LINEの運用も行っています。
空手会館の公式Instagram
こうしたツールでの情報発信による大きな成果として、研修や会議、イベント開催の場を求めている一般企業や団体へのアプローチがあると長堂さんは語ります。
「『沖縄空手会館』という名称から、空手に関するイベントだけに使用する施設という印象を持たれる場合も多かったんです。研修室、会議室の存在や、空手以外の用途での利用も可能なことを営業活動と並行してSNS発信することで、セミナーや会議、各種イベントなどでの利用増につなげられたと感じています」
こうした取組と同時に、空手着のステッチや帯の結び目などもリアルに再現・プリントした沖縄空手Tシャツ、琉球紅型作家とコラボした帯留めやお守りといったオリジナル商品の開発にも乗り出します。空手会館内のショップ(2023年2月現在休業中)とホームページ内で販売を行うとともに、県外・国外発送の体制も整えました。
1カ月100個限定製作。ヤンバルクイナのひな鳥もデザインされた琉球紅型 空手守り
「おかげさまでとても好評をいただき、第2回沖縄空手世界大会が開催されて海外から多くのお客様が訪れた2022年8月には、開館以来最高の売上を記録することができました」
導入の苦労を乗り越える以上に得られるメリットは大きい
システム移行時にはスタッフへの利用方法の浸透など大変なことも多かったそうですが、長堂さんは、それを乗り越えるメリットは十分にあると実感しています。
「スタッフのITリテラシーは様々。導入時はマニュアルだけでなく実際の操作を一緒に行うなど、色々と工夫も必要でした。でも、それまでの課題を整理して自動化できる部分をシステムに任せた結果、情報発信やオリジナル商品開発などに踏み出すことができました。今後予想される人材不足にも対応可能な体制が整い、利用者層を広げ、収益アップにつながる業務に力を注ぐことができるようになったことはとても大きな変化です」
今後もさらにデジタル化を進め、窓口でのキャッシュレス・現金払いもしくは銀行振込で対応している料金支払についても、オンライン決済へ移行させていきたい考えです。
「窓口には管理システムとは別にキャッシュレス決済端末を導入していますが、現金で支払われる方も多く、お釣りが足りない、レジの残高が合わないといったトラブルも起きています。現金管理をなくし、現在は手入力している支払情報を自動で反映できるオンライン決済の導入は、近い将来実現できればと思っています」
また、長堂さんは、「現在は利用料金の改定などの重要事項の周知に利用している利用登録者へのメール一斉送信機能についても、それぞれの属性に合わせた情報発信も実施できるようにしたい」と、個人情報の適切な管理を前提としながら、蓄積されつつある各種データの活用にも意識を向けています。
デジタルの力で利用者の利便性を高めつつ、効率化・自動化で生み出された時間と人員を情報発信や新規事業へと振り向けることで施設の魅力も高め、高付加価値化への糸口を掴んだ沖縄空手会館。その取り組みは、公共施設が進むべき方向性の一つではないでしょうか。