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1919年から私たちの生活を物流面で支え続けるヤマト運輸の現地法人として、1985年4月に設立された沖縄ヤマト運輸株式会社(以下、沖縄ヤマト)。地域に根差した取り組みを軸に、着実に成長を続けてきました。
沖縄グローバルロジスティクスセンター「サザンゲート」での流通加工業務開始、取扱荷量の増加と従業員の働きやすさ改善を目的とした基幹物流拠点「沖縄ベース」のリニューアル、ホテルからスマホひとつで荷物を送れるサービスのリリースなども行われ、沖縄の経済成長と県民の生活向上に大きく寄与しています。
こうした躍進を陰で支えているのは、様々な事務作業を自動化・効率化する工夫です。
「働き方改革」関連法案の施行が始まった2019年当時、沖縄ヤマト運輸ではその推進と定着、さらにお客さまと向き合う時間をいかに作り出すか、という点に目を向け、赤嶺真一(あかみねしんいち)代表取締役社長の強い意思のもと、RPA導入を軸とした業務のDXに着手しました。
今回はその背景と効果、今後目指す未来の姿について、4人のキーパーソンにお話を伺います。

働き方改革推進とお客さまに向き合う時間の拡充を目指し、RPA導入へ

2019年当時、沖縄ヤマトでは、残業時間の多さや日々の事務作業に追われて顧客への対応が十分にできない状況が課題となっていました。

経営管理部長兼業務改革部長である金城正和(きんじょうまさかず)さんは、当時の様子を次のように語ります。

金城さん
「私たちは梱包資材の提供はもちろん、梱包のお手伝いなども行い、荷物を送りたい時に気軽に立ち寄っていただける店舗作りを目指しています。しかし、当時は日々の事務作業に追われ、来店されたお客さまとの会話すら必要最低限のものになってしまっていました。企業向けの営業を担う営業推進課も、事務作業のウエイトが大きく本来の業務に集中できない状態。業務が属人化してしまっている点も課題でした」

経営管理部長兼業務改革部長の金城さん
経営管理部長兼業務改革部長の金城さん

赤嶺社長はこうした状況を鑑み、2019年の経営スローガンを「すべてはお客様のために」と定め、ヒトづくり(社員の思考・行動)とモノづくり(業務の構造改革)に着手。一連の取り組みの中で業務のあり方を大きく変え、目覚ましい成果を生み出したのがRPA(※1)です。グループ会社の事例や県外開催のIT関連展示会などで情報収集し、導入しました。

IT専門人材もシステム部門も持っていない沖縄ヤマトは、機能が優れていても操作が難しければ導入・浸透しないと判断。初歩的なExcel関数が使えれば使用可能な難易度の低さ、操作性の良さ、充実したサポートを基準に、3カ月ほどの検討を経てRobo-Pat(ロボパット)を選定しました。

※RPA:「Robotic Process Automation」の略。PC上で行う単純作業や定型業務をロボットの活用により自動化し、効率化を図るツール

RPA導入の意図を明確に、本気で取り組む意思を社長自ら伝える

RPAのトライアル利用開始は2019年10月から。研修ツール選定から導入まで積極的に推進していた当時の担当者がベンダーの実施する操作講習を受け、実務担当者を巻き込みながら「複雑ではないが頻度の高い」集計業務の自動化をテスト的に進めていきました。

3~4のシステムから20~30のデータをダウンロードし、Excelに貼り付けるという工程が手作業で行われていた集計業務。そうした業務を主に担っていた営業部門のパート社員たち自身が、業務の合間を縫ってその一部の自動化を実現していったのです。
同年12月には、半日の作業が30分にまで短縮されるといった成果を「お披露目会」で経営層・幹部に報告。現場での効率化の実感も大きく評価され、RPAの正式な社内展開が決定しました。

赤嶺社長は、現場への理解浸透を図るため、RPA導入の意図を明確にし、本気で取り組む意思を伝えたと振り返ります。

赤嶺社長
「当時は集計業務や社内資料の作成に多くの時間と労力をかける姿が見受けられたため、『もっとお客さまのために考える仕事、価値を生み出す仕事に重点を置いてほしい』と明確に伝え、ルーティンワークを軽減する手段としてRPAを導入すること、そして、使いこなすことが、現状を打開する有効な打ち手となることを伝え、業務改革として本気で取り組む意思を伝えました」

沖縄ヤマト運輸株式会社代表取締役社長の赤嶺さん
沖縄ヤマト運輸株式会社代表取締役社長の赤嶺さん

各部署の管理職にも作成を体験させるといった工夫も盛り込みつつ進められたRPA導入。当初は部署ごとに取り組む方針でしたが、業務の多忙さや従来の方法を変えることへの抵抗感といったハードルが各所で顕在化したことで、部門ごとに任せる現場型ではなく、専門部隊が集中して取り組むことが必要との判断が下されます。RPA開発・管理、現場業務の見直し、各部門へのBPR(※)支援を行う専門部隊「事務改革課」を期間限定で組織し、プロジェクトとして推進活動を行うことになりました。

赤嶺社長
「RPAを推進していく専門組織を立ち上げ、チームアップしたメンバーに明確なミッションを与えたことで、浸透を図ることができました。私自身も任せっきりにはせず、定期的に進捗状況の報告を受け、アドバイスや必要なサポートを行うようにしていました」

※BPR:Business Process Re-engineeringの略。非効率的な業務方法を抜本的に改革し、全体の業務プロセスを再構築し、業務改革すること

専門部隊が各課への浸透をサポート、初年度5,300時間の削減を達成

事務改革課はリーダー、コアメンバー4名を中心に、ローテーションメンバーを加えた5~7名のチームで結成されました。その活動は、各課のヒアリングと業務の棚卸から始まります。会社でRPA活用や導入の際に参考となる書籍を購入、社内勉強会も開催して推進体制を構築していきました。
現在、沖縄主管支店事務集約センター係長を務める喜納麻衣(きなまい)さんは、立ち上げ当初からのコアメンバーです。

喜納さん
「実務担当者にヒアリングして業務の洗い出しをすることから始めましたが、『何のためにやるの?』という反応も多く、最初は苦労しました。担当者を巻き込んで進められるよう丁寧に話を聞き、営業・人事など5つの部署を約1~2カ月かけて回ったと記憶しています」

事務改革課コアメンバーとしてRPA導入を進めた喜納さん
事務改革課コアメンバーとしてRPA導入を進めた喜納さん

自動化することで大きな効率化が見込める所要時間が長く頻度の高い業務から、優先的にRPAによる自動化に着手。トライアルですでに自動化を開始していた営業部門をはじめ、人事では労務管理、経理部門では収支の分析といった部分から進められていきました。

金城さん
RPAは手段であって目的ではありません棚卸の段階で無駄な業務やプロセスの見直しも行い、すべてを自動化するのではなく、廃止や簡素化、書式や手順の標準化なども同時並行で進めました」

単なる業務の自動化ではなく、「本当に必要な業務だろうか」「簡素化できる部分はないか」といった視点から業務の見直しも行った上で進められたRPA導入。
2020年に事務集約センターも開設され、各課・営業所のルーティンワークを集中処理する体制も整えました。

現在、毎日約30のRPAが稼働し、大幅な効率化を実現している
現在、毎日約30のRPAが稼働し、大幅な効率化を実現している

導入初年度の2020年3月にRPAで自動化された業務は93業務、8,249時間の削減。以降、2021年3月には301業務、14,600時間の削減、2022年3月時点では340業務にまで達し、19,551時間の削減を実現しています。
さらに、RPAを作成・定着させるための知識やスキルを習得した人材を育成・拡充する資格取得支援も行われ、現在パート社員1名を含む24名が「ロボパットマスター」資格を保有。社内でのRPA活用をさらに促進する環境が土台から整えられました。

RPAの効果

従業員の雇用を保証し心理的ハードルも下げる

RPAでこれだけの成果を挙げられたのは、まず経営トップの赤嶺社長によるRPA導入の強い意志と長期を見据えた計画、次に”働き方改革の推進””顧客接点の強化”という目指すものの全社共有や各課の管理職を巻き込む「お披露目会」などの工夫、そして雇用維持を保証した点が大きかったそうです。

価値を生み出す働き方へ

金城さん
「RPAで効率化を図った分人員を削減するということでは、雇用が守られず、従業員がRPAを活用しようという機運の足かせになってしまいます。赤嶺社長は『削減できた時間はすべて顧客接点の強化にあてる』と、人員削減を行わないことを当初から明言していました。従業員数もRPA導入以前と変わっていません」

RPA導入以前は、パート社員でも契約時内に作業が終わらず残業せざるを得ない状況が多く発生していた沖縄ヤマト。RPAによる業務効率化で残業がほぼゼロになり歓迎される一方、「残業が減って収入も減ってしまう」という声も出てきました。

そこで、赤嶺社長は、一定の基準を満たせばパート社員から正社員へステップアップできる正社員登用制度を開始。「時間通りに退社したい」「キャリアアップしたい」どちらの働き方にも柔軟に対応できる仕組みを沖縄ヤマト独自で整えました。

沖縄主管支店事務集約センターマネージャーを務めている永山代志乃(ながやまよしの)さんは、当初、働き方改革や業務の自動化・効率化の実現に懐疑的だったと振り返ります。

営業推進課から事務集約センターへ異動した永山さん
営業推進課から事務集約センターへ異動した永山さん

「たくさんの書類に囲まれ、手探り・手作業で業務を進めていたので、『いったいどうやるんだろう。本当にできるの?』と感じていました。でも、本当に実現できた。社長が強い意志で方針を定め、全社的に取り組むことの力を実感しました。
また、正社員登用制度が整備されたことで、それまで明確な評価の指標がなかった事務職のパート社員にも、正社員への道が大きく開かれたんです。がんばっているパート社員が正社員になれる制度を会社として整備してくれたことを、とてもうれしく感じました」

業務をRPAに移行してやるべきことに専念できる環境を作り、お客様対応の質を上げる。そうした明確な方針をミーティングなどで全従業員に共有するとともに、「人員削減は行わない」と明確に打ち出すことで、業務効率化の心理的ハードルを取り払う工夫も大きな成果を生んだ要因のひとつと言えるでしょう。

データ利活用や業務への向き合い方にも大きな変化が

RPA導入以前から、沖縄ヤマト運輸は県内35の営業所の売上など指標となるデータの抽出・共有を日々行っていましたが、手作業で抽出するため、データが揃うのは早くとも翌日の午前中、繁忙期は夕方になってしまうことも。
RPA導入により、自動データ抽出・翌朝のメール配信が可能になったことで、沖縄主管支店事務集約センターセンター長の玉城邦彦(たまきくにひこ)さんは次のような変化を感じていると話します。

玉城さん
前日のデータを出社後すぐに確認でき、前日の実績値や改善点に支店ごとにすぐに取り組めますし、本部からの支援もタイムリーに行えるようになりました。データは従業員全員に配信されるので、皆が売上や生産性を意識し、向上しようと考えることにもつながっています。
今後は蓄積されたデータを元に、予算の作成や業務量予測に基づいた稼働設計などに活用の幅を広げていきたいです」

沖縄主管支店事務集約センターでセンター長を務める玉城さん

喜納さんは、RPA導入のための業務棚卸により、従業員の業務そのものを見る視点が大きく変わったと話します。

「業務のRPAでの自動化にはマニュアルが必要ですが、マニュアルがなく担当者の経験値でこなしているものも多かったんです。教えられた業務を教えられた通りにやり、その方法に疑問を持つことがそもそもなかったですし、そうしたことを考える時間も持てていなかった。
改めて業務に向き合うことで、『何のための業務なのか』『効率化できる部分はないか』といった新しい視点を持てるようになりました。会社として大きく成長できた部分だと思っています」

RPAの活用で、全国の営業所の業務を変えていく

IT専門の部署や人材を持たない中で取り組んだRPA導入により、大幅な業務の効率化と会社全体の意識改革に成功した沖縄ヤマト。
今後RPA導入に取り組む方へ向け、金城さんは、「RPAは難しいものと考えていましたが、思っているほどハードルは高くなかった。ITスキルがそこまで高くなくても簡単に使えるツールはたくさんあるので、やりたいこと、今のスキルで無理なく扱えるものを選び、まずは試してみてもいいのではないでしょうか」と話します。

沖縄ヤマトが描くのは、沖縄で作成したRPAを各拠点で転用し、異なる領域のRPAを同時多発的に開発し、最も優れたものを標準化してグループ会社に水平展開していく未来。
「全国の営業所の人材の力を合わせればもっと良いものができるはず」「毎日同様の業務を担当者の熟練度とマンパワーで行っている状況を変えたい」と、現在北海道営業所との定期ミーティングや連携を進めるなど、その一歩を踏み出しています。
赤嶺社長は、デジタル化、DXに取り組むことの意味、効果について次のように語ってくださいました。

赤嶺社長
「労働人口が減少していく中で、企業がこれまで以上のサービスや品質を維持するためには、機械で出来る業務は可能な限り機械に任せ、省人化や自動化を図っていく事が重要だと考えています。それは、バックオフィス業務に限らず、作業や集配業務に関しても同様で、当社ではあらゆる業務においてDXを推進することが生産性の向上の大きな武器になると考えています。
デジタル技術を活用することで、より便利なサービスが提供できるようになり、お客さまに喜ばれるだけでなく、社員にとっても働きやすく、創造性も高まるといった良い循環が生まれるのではないでしょうか。
DXを通してそうした環境を整備していくことは、『企業が競争に勝ち抜く』という観点からも『働く人たちから選ばれ続ける』という観点からも非常に重要だと考えています」

お客さまがよりスムーズに『荷物を送る・受け取る』を実現できるよう、世の中にある様々なITツールも上手に使いながら、利便性の向上と効率化を。
沖縄ヤマト運輸はさらなるIT活用を視野に、日々お客さまに向き合う時間を充実させています。

会社概要
会社名:沖縄ヤマト運輸株式会社
所在地:沖縄県糸満市西崎町4-21-3
創業:1985年4月4日
代表者:代表取締役社長 赤嶺 真一
従業員数:1,516名(2022年10月1日現在)
事業内容:貨物自動車運送事業、貨物利用運送事業、自動車整備事業、倉庫業、荷造梱包業など

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