- 事例紹介
- IT活用
BEFORE & AFTER
- 入退去の連絡を7割メールに移行。1クリックで日割計算できるアプリをkintone上に構築し、PDFで電子押印済みの請求書を発行する仕組みに。管理・請求業務の所要時間が70時間から40時間に減り、ミスも激減した
※kintone=サイボウズ株式会社が提供するアプリケーション。webデータベース型で、企業や業務内容に合わせたシステムが構築できる他、顧客管理や申請ツール、チャット機能、勤怠管理などさまざまな機能を自由にカスタマイズできる
毎月末は請求処理に追われ、月次売上集計の遅れが常態化
有限会社リサイクルセンター沖縄は、読谷村内の家庭ごみや産業廃棄物、資源物(ダンボール)の回収を行う従業員 8名の会社。約30社の賃貸住宅管理会社と契約し、約900物件のごみ回収を担っています。事務担当者は1名 、物件の管理や請求業務、経理業務を一手に引き受けています。
「経営状況を把握するためにも、事務担当者には経理業務を最優先してほしいところ。ところが、月末の請求処理のしわ寄せで経理が遅れることが常態化していました」と振り返るのは、代表取締役の玉城栄(たまきさかえ)さんです。
請求は物件ごとの月額制ですが、賃貸住宅管理会社からはFAX・電話で1カ月あたり合計30〜70件の入退去の連絡が届きます。毎月20日に取引先に請求金額を確認するため、事前に入退去に伴う日割計算を行いFAXで送付。承諾を電話かFAXで得て請求書を送付するというプロセスで業務負荷が重く、月末は請求書の発行にかかりきりに。
この請求業務は、ベテラン事務担当者の頭の中と紙の物件リストへの手書きメモ、物件の数だけ大量にタブが並ぶ表計算ソフトのシートを連動させた属人的なものになっていました。このため、事務担当者の病欠時には、玉城さんがゼロから業務プロセスを把握して何とか乗り切ったこともあったそうです。
「オーバーワークでしたが、事務担当者をもう1人雇うほどの業務量はありません。残業でどうにか回っていたし、『いつか着手しなければ』と思いつつ先延ばしにしていました」
先延ばしに終止符を打つきっかけとなったのは、新型コロナウイルスの感染拡大でした。
「経理処理が追いついておらず、補助金申請に必要な月次の売上金額をすぐに提示できなかったんです。『これはまずい』と重い腰を上げました。勤続20年の事務担当者も、いずれは定年を迎えます。今のうちにやっておくべきだと思いました」
もともと東京でIT企業に勤めていたこともあり、デジタル化による業務の効率化には興味があったという玉城さん。勤怠管理はすでにデジタル化していたところ、より複雑な業務へのITツールの導入に踏み切ったのです。
予算に合わせ機能を選定。自社に最適化したツールを構築
ITツールの導入は、「小規模事業者等IT導入支援事業(令和4年度より小規模事業者等デジタル化支援事業)」を活用し、コーディネーターの力を借りて進めました。
「月末の請求業務の負荷を劇的に下げるためには、kintoneの基本機能に加えて、システム会社にオーダーメイドしてもらうアプリが必要でした。色々な機能を提案されましたが、全部採用すると予算がかさみます。コーディネーターがシステム会社との間に入り、予算内で最大限効果を得られる機能の取捨選択をサポートしてくれたのが成功要因だったと思います」
IT化する業務フローを洗い出す際には、一連の業務を1人で担ってきた事務担当者の知見を余すところなく反映しました。
「ごみ回収をする物件の並び順や所在地の表示方法は、これまで使用していた紙のリストの通りに。赤字や青字で区別していた顧客種別もシステムに反映しました。長年の経験から感覚的に行っていた業務を要素分解するのに苦労しましたが、こまごまとしたルールや作業すべてに意味があるので、抜け漏れなく新システムに移行できるよう緻密に洗い出しました」
システム会社にすべて言語化して伝えることには、別の意味での抵抗もあったそうです。
「渡すべき情報には顧客情報も含まれ、培ってきたオペレーション上の工夫は弊社の知的財産でもあります。秘密保持契約を結ぶとはいえ、これらを外部に出すことをためらう気持ちはありましたが、やると決めたからには、と勇気を出しました」
システム会社との10回以上のやりとりを経て、リサイクルセンター沖縄にマッチしたシステムが完成。入退去による日割計算は入力した日付から自動 算出されるようになりました。
賃貸住宅管理会社によって異なる少数点以下の四捨五入といった計算方法も、事前の設定でシステム側が自動で対応。請求書に押印する社判も電子化し「PDFデータを出力して押印しスキャンする」というひと手間も省略しました。
「結果的に事務担当者の作業負荷が月間約30時間(43%)軽減され、経理に手が回るようになって月次の売上報告も上がってくるようになりました。経営上、大きなメリットです」
システムに大きく助けられる一方で、あえて人の手を経由するよう自動化しなかった機能もあります。
「入退去をシステムに登録する作業は、今も手動で行っています。メールからの自動登録も技術的には可能でしたが、それでは契約内容に目を通す機会がまったくなくなってしまい、お客様との間に何か問題が生じた時にすぐに対応できないんです。
登録作業を通して契約状況を事務担当者の頭に入れておくことは、弊社にとって必要なプロセスだと判断し、自動化しませんでした。導入の時点では、取引先がどの程度連絡手段をメールに移行してくれるかわからなかったことも影響しています」
連絡手段をメールに移行したことによる意外なメリットとは?
システムの導入に伴い、入退去や請求金額の確認・承認といった取引先との連絡手段をFAX・電話からメールに移行する必要がありました。結果的には、7割の取引先には快く対応してもらえ、高齢の経営者や事務担当者が1人で対応が難しい3割の取引先とは従来通りFAXでやりとりしています
「連絡手段のメールへの変更が歓迎されずうまくいかないのでは、と不安でしたが、蓋を開けてみるとそうでもありませんでした」と振り返る玉城さん。副次的なメリットも感じているそうです。
「回収できないごみがあった場合、以前は口頭で説明をしていて『何がどうダメなのか』伝わりづらかった。これが、メールに写真を添付するようになったことでひと目でわかり、賃貸住宅管理会社から居住者への伝達もスムーズになりました。
『居住者に伝えやすくなり助かっている』というお声もいただき、サービスの向上につながってうれしく思っています。また、粗大ごみが出る際には事前に連絡が入るようになり、現場も動きやすくなりました」
また、過去にはリサイクルセンター沖縄から取引先にFAXで送った請求金額の確認書が紛失、取引先が気づかないまま間違った請求金額で支払われていたこともあったそうです。同様にFAXが紛失して入退去の情報が伝わらず、回収漏れや回収ルートに無駄が発生してしまったこともありました。こうしたロスは、メールに移行して以来起きていないということです。
「弊社のケースでは、事務担当者の増員よりITツールの導入が正解」
玉城さんは、事務担当者の増員を検討したこともありました。事務担当者に相談したところ、「1人がいい」との回答だったことも今回のITツール導入の一因です。
「事務の仕事は、2人になればその分楽になるとも限りません。かえって情報共有に手前がかかったり、共有不足でミスが起きたり、仕事の進め方の相性が合わずストレスになることもあります。増員ではなくツールを選択したことは、結果的に大正解でした。
人間がやった方がいいところはこれまで通りベテラン事務担当者が担い、使い勝手良くカスタマイズされたITツールがサポートする。いい形ができました」
ITツールの導入は小規模企業にこそ必要
業務フローの洗い出しやシステム会社とのやりとりに苦労はしたものの、ITツール導入の成果に満足しているという玉城さん。
「事務担当者が何人もいて情報システム部もあるような規模だったら、もっと難しかったのではないでしょうか。経営者が本気になり、事務担当者が1人だったからこそ、力を合わせてやりきれた。ITツールの導入は、実は我々のような小規模な企業にこそ向いているのかもしれません」
デジタル化の恩恵を大きく受けられるのは、実は中小企業です。限られた人材で生産性を上げる近道は、デジタル、ITによる業務効率化。
今回の事例でも、玉城さんは新たな人員雇用ではなくITツールを導入、業務の流れを整理し改善することを選択しました。こうした取り組みは、会社の持つ資産や知見を最大限に活用し、その価値を高めて生産性を上げるチャンスにつながります。