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施工管理のリモート化で 移動時間を60%削減し品質も向上
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県内大手の建設会社である株式会社福地組からリノベーション部門が分社化する形で設立された株式会社リノベースは、個人住宅を対象に、間取りから改築し住み心地の改善を行うリノベーション会社です。設計部と営業部、管理部で合わせて5人という小所帯で年間約1512件のリノベーションを遂行する筋肉質なチームを支えるのは、分社後に独自で導入を進めた3つのデジタルツール。デジタル化を主導した事業責任者の岩脇達磨(いわわきたつま)さんに、ツールの賢い選び方や導入のメリットを伺いました。
現場の進捗管理をリモート化し効率と品質を向上
総勢8名の小さな会社であるリノベースは、分社直後からデジタルを活用した様々な効率化に取り組んできました。その中でもっとも大きなメリットを生んでいるのが、施工管理を現地での目視からリモートでのコミュニケーションに移行したことです。導入前は、営業担当者が2日に1度程度現場に足を運び、往復の移動に大きく時間を取られていました。
「我々は、リノベーションでより多くのご家族の暮らしをより良いものにすることをビジョンに掲げています。ビジョンを実現するためには、ひとつでも多くの案件を高品質に完遂できる強いチームを作る必要があります。そこで、お客様にとっても現場で作業する方々にとってもメリットのある形でデジタルによる効率化を進めてきました」
株式会社リノベース 管理部部長 岩脇達磨さん
そう話す岩脇さんは、他業種で勤務した経験を活かし、現地に足繁く通う建設業の習慣に着目しました。
「中には往復2時間かかる現場もあるのに、なぜ2日に1度も現場に行きたがるのか疑問でした。その2時間で他のことができるのでは、と担当者に尋ねると、『心配だから』との返答。そこで、『何を見に行っているのか』『現場からどんな報告が得られれば行かなくて済むのか』を整理するところから始めました」
ヒアリングの結果わかった現場に行く主な理由は2つ。1つ目は進捗の確認、2つ目が施工中に発生する疑問点の解消でした。進捗は現場作業員に写真を送ってもらって確認し、疑問点はチャット機能を使えばリモートでも問題ないと判断した岩脇さんは、建設業の施工管理向けに開発されたデジタルツールである「ANDPAD」を導入。その結果、営業担当者が現場に行く回数を週1回にできただけでなく、様々な面で品質が向上したのだそうです。
「まず、作業を終えて現場を出る際の報告に、施錠とブレーカーを落とした写真の添付をルール化しました。また、作業の進捗にも写真を活用し、工程表と照らし合わせて遅れがないかを確認します。結果的に施工中の写真がストックできるので、リノベーションのビフォーとアフターの写真をお客様に差し上げられるようになりました。お客様にも喜ばれますし、万が一不具合が発生した時にも、給排水管の経路といった完成後に隠れて見えなくなってしまう部分の状態が確認できることは私たちにも大きなメリットです」
新しい方法をスムーズに浸透させるため、多数の類似サービスの中から採用するデジタルツールを検討する際には、工事を担当する取引先にもヒアリングを実施。「使ったことがある」という声が多かったサービスを選びました。また、導入後も、現場とのコミュニケーションを速やかにツールに一元化するため、心がけていたことがあります。
施工管理デジタルツール「AND PAD」。毎日写真で進捗報告(左上)を受け、工程表(左下)と照らし合わせることでリモートによる進捗管理が可能に。現場とのやりとりはチャット(右)で
「現場で施工する方々が『やっぱり来てくれないと』という気持ちにならないよう、問い合わせには”即レス”を徹底していました。また、毎朝こちらから挨拶を送ったり、メッセージを送っても既読サインがつかなかったら電話して確認を促したり。別のチャットアプリで質問が来たら『AND PADで返信します』と返信するなど、地道な普及活動に勤しみました」
こうした努力の結果、現場とのコミュニケーションがすべてツール上に集約され、口頭では残らなかったやりとりの履歴が残ることに。進捗確認の頻度は「現場に訪問して2日に1回」から「リモートで毎日」になり、移動にかかる時間を削減しながら、管理の精度が上がりました。
「工事がどこまで進んでいるかをリアルタイムで把握できるので、お客様を現場にお連れする際の説明の品質が向上しました。一方で、細かい進捗管理ややりとりの記録が残ることについて、現場の方から『しんどい』と言われたことも。しかし、管理を緻密にすることで工期の遅れが早めにわかれば、納期ギリギリに無理な工事をお願いすることもなくなり、職人さんたちの安全を守ることにもつながります。こうした考えを丁寧に伝え、理解と協力を仰いでいます」
様々な工夫により現場に浸透・運用されるようになったデジタルツールは、施工管理の効率化だけでなく顧客サービスの品質向上や工事現場の安全性向上にも寄与しています。
契約業務と営業もデジタルツールで効率化。解決したい課題はデジタル導入を検討
リノベースでは、施工管理と同様に移動に時間を取られていた契約業務もデジタル化しました。バックオフィス機能は母体である福地組の総務部が担っていることから、以前は社判の押印のためだけに、リノベース本社がある那覇と、嘉手納にある福地組本社を2時間かけて往復する業務が発生していたそう。
そこで、顧客との契約については電子印で締結するようにしたことで移動の時間を節約。さらに、契約書が自動的にデータで保存されることにより検索性も高まっています。
また、見込み顧客への営業を後押しするデジタルツールも活用しています。
「マーケティングオートメーションツールと呼ばれるもので、契約につながる確度の高いお客様に優先的にアプローチするために活用しています。これまでに最も検討期間が長かったケースは、ファーストコンタクトから契約まで1年半。お子様の成長などのライフステージの変化に伴ってリノベーションという大きな買い物を決意されることが多く、そのタイミングを逃さないために適切にコンタクトを取り続ける必要があります。
このツールを使うと、商談を重ねるたびに蓄積されるお客様の情報を一箇所で管理できるだけでなく、定期的な案内メールの一斉送信も可能で、お客様のリアクションもデータとして蓄積されます。弊社への関心度が高い見込み顧客を判別できるので、完成見学会へのご招待など、手間と時間のかかる打ち手を効果的に進められるようになりました」
営業担当者の記憶に頼らず、抜け漏れなく営業活動ができるほか、担当者の退職などがあっても切れ目なく対応できるメリットも。
「ご家族の事情、要望に合わせてオーダーメイドで設計・施工を行うため、商談の時点で家族構成やご希望の間取り、敷地や既存物件の条件など多くの情報をいただいています。時間が経ったから、担当者が変わったからといって、そうした情報をお客様に再度お伝えいただくのは大変なストレスをかけてしまうことです。デジタルツール上に一元化しておけば、検索性も高くアクセスしやすいため、こうしたリスクがなくなります」
社内で優先順位を話し合い、全体最適を意識して導入を進める
これらのデジタルツール導入にあたっては、建設業の業務フローごとに多様に存在するサービスの守備範囲を見極め、サービス同士の接続性にも留意して慎重に検討してきました。
「小さな会社である利点を活かし、『どの業務を効率化すればより良い仕事に結びつくか』『導入コストに見合うメリットが得られるか』、日頃の業務でストレスを感じた時には放置せず、みんなでよく話し合っています。
マーケティングオートメーションツールは営業担当者の発案で導入しましたが、設計部から提案のあった3D設計ツールはコストパフォーマンスが見込めず見送りました。私が担当している経営分析業務も、デジタル化のためのツールはあるのですが、導入済サービスとの接続性の面で物足りず、導入には至っていません」
今後は、施工管理ツールやマーケティングオートメーションツールに蓄積されているデータを活用し、引き渡し後の是正工事が出にくい現場の傾向の把握、単価や利益率が高い仕事に結びつく見込み顧客との商談の進め方や営業トークを可視化・平準化するなど、デジタル化のメリットを最大化したい考え。こうした展望を描きながら、実現に役立つデジタルツールがリリースされたら、いち早く検討する構えです。
「理想を言えば、営業から契約、設計、施工管理、アフターフォローや顧客管理、経理や経営管理までを一つのデジタルツールで網羅できればいいのですが、残念ながらそうしたサービスはありません。ツールごとに得意不得意があり、多機能でも弊社にとって肝心なところが解決できないサービスもあります。そして、一度使い始めてデータが蓄積されていくとスイッチングコスト(切替費用)はどんどん上がり、より良いサービスが出ても簡単には乗り換えられません。
会社の規模や業態によって『肝心なところ』は違うので、今後もデジタルツールで解決したい課題の優先順位を見極めながら、慎重に導入を進めていこうと思います」と話す岩脇さん。
「無駄な移動」と「優良顧客への営業機会の取りこぼし」を優先順位の高い課題と定義して進めたデジタル化を成功させたリノベースは、一人当たりの生産性を重視して案件数と売上を成長させています。