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沖縄県緑化種苗協同組合(以下、組合)は、造園業を営む72社で構成された業界団体です。道路や街路樹、公園の維持管理を担う各社が、資材・樹木を共同購入するなどの協業体制を構築してきました。
2018年、組合は道路の伸長に伴って新しく植える仕事が多かった時代から、維持管理の時代への変化に対応するべくDXに着手。現在はkarahai(カラハーイと名付けたシステムを共同所有し、県内にある樹木の在庫と、街路樹や雑草の整備状況について各社が持つ情報を一元化することで、造園業が生み出す付加価値の向上を図っています。
その背景にある課題と、4年をかけて3つの機能を構築・稼働させるまでの取り組みを詳しくご紹介します。

BEFORE & AFTER

樹木の県内在庫情報が一元化されておらず、計画完成後に在庫がないと判明して計画を変更するロスが発生していた。また、行政側が決める計画を待っているだけでは、枯れた街路樹や根の成長で凹凸が発生した道路、雑草の繁茂に対して適切なタイミングで維持管理作業ができなかった。業務管理では、行政との間に大量の書類のやり取りが発生。
  • 30万本の樹木の在庫がひと目でわかるようになり、計画変更のロスがなくなった。また、造園業者各社が持つ道路状況についての情報をリアルタイムで一元化することで、最適なタイミングでの維持管理作業を行政に提案可能に。さらには、作業報告や引き継ぎもシステム上で統一し、書類が激減した。

道路の美観と安全を支える「街路樹」と「雑草」の維持管理業務とは?

沖縄県は、令和4年9月に「~美ら島沖縄~花と樹木の沿道景観計画」を策定し、沖縄らしい世界水準の観光地にふさわしい良好な沿道景観形成を目指すという目標を掲げています。街路樹や沿道景観に重要な役割が期待されているものの、冬枯れしない雑草や全国的に見ても多い街路樹の維持管理に苦慮していました。また、造園業界が将来にわたって樹木を健やかに美しく保つ剪定などの技術を継承・向上していくためには、効率化と付加価値の向上が急務でした。

有限会社西原農園代表取締役・沖縄県緑化種苗協同組合理事長の下地浩之(しもじひろゆき)さん
有限会社西原農園代表取締役・沖縄県緑化種苗協同組合理事長の下地浩之(しもじひろゆき)さん

「生き物である樹木や雑草を扱うには、現況と経過を見極め、適切なタイミングと方法で除草や剪定を行う知識と技術が必要です。私たち造園業者が持つこうした知識・技術はまだまだ活かしきれておらず、枝を伐り落とされて電柱のような哀れな姿になった街路樹や、通行に支障が出るほど雑草が生い茂った道路があります。この課題に業界として取り組もうと始まったのが、ITを活用し道路景観の維持管理を行うカラハーイのプロジェクトです。」

こう話すのは、有限会社西原農園代表取締役で沖縄県緑化種苗協同組合の理事長も兼務する下地浩之(しもじひろゆき)さんです。

西原農園の呼びかけに平成造園と海邦造園、組合が応える形でコンソーシアムを組成。2018年、沖縄県の中小企業基盤強化プロジェクト推進事業に採択され、カラハーイプロジェクトに着手しました。

1年目には樹木の在庫管理システムを構築。2年目の2019年に街路樹の現状を把握できる情報集約機能を追加し、街路樹の植え替え業務の改善を図りました。その後、1年おいて2021年に雑草や低木等の沿道景観を管理できる機能を追加しました。

「復帰後に植えられて50年が経過し、外形が大きくなり過ぎたり枯れたりする街路樹が出てきています。どの道路の街路樹にどんな不具合が発生しているかという情報をデジタルプラットフォームで一元管理すれば、組合がリーダーシップを取って県や市町村などに植え替えを提案することもできます。
私たちは造園のプロとして、景観や成長速度などの面から街路樹に適した樹木を選定して計画を立てます。その際に、例えば4メートル長のヤシ100本の在庫が県内にあるかどうかといった詳細な在庫状況がすぐにわかれば、計画や見積りをスピーディーに作れるんです」

カラハーイの街路樹在庫管理システム。種類ごとに県内在庫を確認できる
カラハーイの街路樹在庫管理システム。種類ごとに県内在庫を確認できる

こうした考えを背景に街路樹から着手したDX化は、1年の試験運用期間を経て、雑草の道路の維持管理へと領域を広げました。

雑草が冬枯れせず、生い茂るとハブ被害の危険が伴う沖縄特有の条件の下、限られた予算でいかにして除草を行うか。
この課題に対して、2021年度から行政は「仕様規定」から「性能規定」へ発注方法の変更を試験的に実行。組合はこれに対応し、各業者がカラハーイ上で雑草の現状を定期的に共有できるようにし、業者間で異なっていた報告書の内容や仕様を統一する仕組みを整えました。

報告書の仕様を統一し作成作業と行政の確認作業を効率化

以前に採用していた仕様規定とは、行政側がタイミングと回数を決めて業者に除草作業を発注する手法。新しく採用された性能規定は、 行政側で出す要求水準(例:雑草の草高を50cm以下にする)を満たしていることを報告し行政が確認すれば完了とします。
これに伴い、組合では雑草の状況を月に1度モニタリングすることに。小型カメラで撮影した沿道のモニタリング動画をカラハーイに蓄積することで、受託する業者が代わるたびに行われていた現状調査を省略できるようにしました。

報告業務にかかる時間はDX前と比べ50%削減できたと語る與那嶺さん

有限会社西原農園工事部主任の與那嶺学(よなみねまなぶ)さんは、行政への報告業務を担当。

「以前は、除草作業の『前』『中』『後』の写真を撮影して報告書に添付していました。また、除草を人力で行ったか機械を使ったか、何人で作業したのかも報告していました。本来は、『草丈がきちんと管理され、道路がきれい』という状態が大事なのですが、仕様規定では『作業そのもの』を報告する決まりでした。
報告書は役所に保管され、次の入札で行政の担当者が路線ごとにコピーして業者に提示。業者はコピーと現地調査をもとに積算して応札し、受注後も作業のたびに『今回はここまで刈りました、来月はここを刈ります』と協議書を提出し、OKをもらって初めて除草作業ができる。この繰り返しでした。」

カラハーイの除草作業管理画面。街路樹や雑草の状況を画像等で共有・蓄積できる。
カラハーイの除草作業管理画面。街路樹や雑草の状況を画像等で共有・蓄積できる。

性能規定に変更されたことで作業前の協議書は必要なくなり、業者と行政のやりとりは作業後の報告書のみとなり、大幅な書類の削減が可能なりました。また、報告書は各業者がそれぞれの書式で提出していましたが、現在はカラハーイ上で雑草の背丈を入力し、月に1度現場状況を撮影した写真と映像を蓄積するシステムを構築したことで、これらを出力するだけで統一された簡潔な書式で提出できるようにしました。
これにより、行政の報告書確認・管理業務が効率化。業者同士も、カラハーイ上で他の業者が提出している報告書を確認し合えるようになり、行政と間での報告書の出し戻しが激減したのです。

ITを後ろ盾にプロの強みを生かし県民に貢献

時期によっては通れないほど雑草が繁り、苦情が寄せられることも多かった状況を変え、県民の負荷軽減にも役立ったと語るのは、カラハーイプロジェクトで事務局を務めている沖縄県緑化種苗協同組合の比嘉謙太(ひがけんた)さん。

「性能規定への変更により、平たく言えば『100回刈ろうが1回刈ろうが道路の質を維持できていれば良い』と私たち現場のプロに匙加減を任せてもらえたことで、行政の許可を待たずに作業効率が最も上がるタイミングで除草できるようになりました。また、ITの力を活用して情報の流れをシンプルに整えたことで行政・業者ともに書類作業を削減でき、その分の余力でプロの知見を県民生活の向上にも生かせます」

業者が持つ「プロの知見」は、除草のタイミングに関するものだけではありません。加盟している企業には街路樹剪定士や植栽基盤診断士、造園施工管理技師といった資格を持つスタッフも多く、これらのスキルは街路樹管理の質の向上にも役立ちます。

プロの知見を県民のため、より良い樹木管理に生かしたいと語る比嘉謙太さん
プロの知見を県民のため、より良い樹木管理に生かしたいと語る比嘉謙太さん

「街路樹剪定士は、樹木の将来の樹形を見据え、完成した姿にするために樹種や生育レベルに合わせて剪定する技術を持っています。植栽基盤診断士は、土壌の化学性や物理性等を診断できる資格。造園施工管理技師は、状態の良い成木に育て上げるための効率的な手順をコントロールする管理の技術者です。
例えば、樹木に病害虫が発生すると、虫の餌になる葉を落とすために太い枝ごと伐採しているケースが頻繁に見受けられます。この方法は、 予算的には低コストで費用対効果が出ているように感じるのですが、樹木の植生を考慮すると実は非効率。 本来、太い枝を伐採する「強剪定」と呼ぶ方法で、樹形再生をする際にのみに行う特別な剪定であり、安易に採用していいものではありません。剪定後ホルモンが過剰に分泌され、次の年に一気に葉が出てしまって逆に管理しにくくなります。本来であれば細かい剪定をして葉を落とす、弱剪定管理が望ましいんです。」(比嘉さん)

データを蓄積し競争力を持つ

組合は今後、カラハーイ上で雑草・低木・街路樹の経過観察データを蓄積し、施工管理業者が変わっても継続的に樹木の状態を追えるようにする計画。そうすることで、適切な剪定や植え替えのタイミングを提案できるようになり、商談機会を拡大し受注確率を上げる展望です。

「カラハーイのアカウントは、すでに組合に加盟する全ての業者に配ってあります。ただ、実際にログインして活用しているのは数社にとどまっているのが現状。より多くの事業者に幅広く浸透させることを目標にしています。カラハーイプロジェクトでプロジェクトマネージャーを務めた牛島さんを中心に、日本造園建設業協会の女性部の定期勉強会でカラハーイ構築の意図や経緯、機能の紹介等を行っています

女性部の山川満利子(やまかわまりこ)さん(左、中部緑化土木株式会社)と牛島雅子(うしじままさこ)さん(右、有限会社西原農園)
女性部の山川満利子(やまかわまりこ)さん(左、中部緑化土木株式会社)と牛島雅子(うしじままさこ)さん(右、有限会社西原農園)

道路管理の仕様規定から性能規定への変更も、現在は沖縄県が所有する県道の一部のみですが、目標としては令和5年、ずれ込んでも令和6年には全て性能規定型にシフトしていく計画です。国道や市町村道まで拡張していった暁には、カラハーイに集約される情報が増え、統一した仕様で業者間・行政と業者間での情報共有ができていることの価値がさらに上がる。結果として統一した高い品質で沖縄の沿道景観を維持管理できるのではないかと考えています」(比嘉さん)

下地さんは、カラハーイを街路樹や道路管理のビッグデータを持つデジタルプラットフォームに育て、リゾートや大型商業施設の造園業務に活用することも視野に入れているとのこと。今後のビジョンも明確です。
植える時代から維持管理の時代に遷移する転換期をDX推進の契機とし、造園業界の新たな可能性を開拓しています。

組合概要
名称 沖縄県緑化種苗協同組合
設立 1976年
住所 沖縄県西原町字小波津357-1
組合員数 69社(2021年4月現在)

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