- 事例紹介
- データ活用
珊瑚建材は、糸満市に本社と採掘場を置く建設関連企業。所有する鉱山から採掘した石材に粉砕などの加工を施し、沖縄県内の建設現場に届けています。加工に使用する重機や輸送用の車両を合計59台保有し、取引先は100社に上ります。
同社では2021年、営業支援と資産・経営状況管理にITツールを導入しました。業務の実情に合わせて社内で機能を拡張し、経営上の重要な数字を見える化したことでどんなメリットがあったのか。代表取締役の金城日出児(きんじょうひでじ)さんと、システムの導入を主導した総務部長の村岡孝明(むらおかたかあき)さんに伺いました。
売上や経営状況をリアルタイムで把握しスピーディーに業務に反映
営業支援や顧客・資産管理にITツールを導入する事例は多くありますが、珊瑚建材ではそれらに加えて、経営に関するデータ分析にも活用しています。ゴールは利益率の向上で、これに役立つ数字の可視化を目指して、導入や自社に合わせた開発を進めてきました。
「貸借対照表と損益計算書、これらから導き出す経営データ分析の数字が一目瞭然になりました。以前は、会計ソフトから出力した貸借対照表を見ながら表計算ソフトで経営分析と可視化を行う作業に1−2時間かかっていたんですが、今は元になる数字を入力する1-2分で済みます」と明かすのは村岡さんです。
金城さんは「限界利益率(※1)や自己資本比率、キャッシュフローがパッと見てわかるようになり、設備投資の計画が立てやすくなりました。また、大体の納税額や飛び抜けて多い経費の内訳が今まで以上にリアルタイムでわかるようになったことは、経営上大きなメリットです」と語ります。
※1 限界利益率 売上高から変動費を差し引いた利益の金額を示す限界利益が売上高に占める割合
「導入前は、記憶と感覚を頼りに動いていました。事務所にいて、資材を引き取りに訪れるお客さまのトラックを見ている中で、『あの会社、最近来ないな。そろそろ先方の事務所に顔を出しに行こうか』といった感じ。今は、30日以内に取引があれば緑色、60日以内なら黄色、90日は赤色と色で明確に判別できるので、動きやすいです」(金城さん)
村岡さんは、金城さんの頭の中にしかなかった記憶や感覚に頼らず、他のメンバーも自社の営業の状況が把握できるようになったことも導入のメリットに挙げています。
「属人性の排除は、ITツール導入の大きなメリットです。また、こうして取引先ごとの売上データを蓄積していくことで、弊社が売上を立てやすい条件の分析はもちろん、将来的にはAIによる売上予測も可能になります」(村岡さん)
重機の状態を把握し中古市場への最適な売り出しタイミングを計る
利益率の向上というゴールにおいて、リアルタイムの数字を使った経営判断や営業効率の向上と同時に重要なのは、資産管理やコストの削減です。珊瑚建材では、これらにもITツールを活用しています。
「重機を中古市場に出すタイミングも管理しています。エンジンの交換といった大掛かりな修理から消耗品の交換などの軽いものまで、重機にはさまざまな維持管理費用がかかります。次に必要な費用を5段階に分類し、重機を1台ずつスコアリングして表示することで、売りに出すタイミングが明確になりました」(金城さん)
これまでは、エンジン音や走行距離、使用時間、過去のメンテナンス履歴などの記憶から金城さんが感覚的に判断していましたが、1人の頭の中で管理できる台数には限界があると感じていたとのこと。それを画面上で一覧できるようになったことで、時間をかけず、抜け漏れなく重機の現状や売り時を把握できるようになりました。
重機の維持管理情報を一元化したことで、修理の時期を知らせるアラートメールのメンテナンス担当者への自動送信も可能に。
「これまでは、事務所にある紙でメンテナンス履歴を管理していたので、担当者は事務所まで確認に来なければなりませんでした。見に行こうと思わなければ見られない状況で、すべての機械のメンテナンス時期を覚えておくことは不可能。結果的に忘れてしまうこともありました」(村岡さん)
現在は確認作業がなくなって楽になった上に、メンテナンスを忘れてしまうこともなくなっています。
大きなリスクをはらむ外注先の管理にも活用
金城さんが「改善点として一番インパクトがあった」と話すのは、外注先の輸送車輌の保険の管理です。
「他社の事例で、輸送中の交通事故で6,000万円の損害が出たと聞きました。保険金で賄えたそうなのですが、もし外注先が事故を起こした場合、弊社に責任が発生する可能性があると想像して脅威に感じたんです。そこで、外注先は対物無制限の自動車保険に加入している事業者に限るというルールを新たに定め、管理システムを構築しました」(金城さん)
外注先の車輌の加入保険の種別や期限を一元化し、アラートが上がるように設定。メンテナンスと同様、紙での管理ではわざわざ見なければ期限が迫った車両などを見つけられませんでしたが、こちらも見逃すことなく確認できるようになりました。
このほか、健康診断の受診や有給休暇の取得をしていない社員に個別にアラートメールを送るといった従業員管理にも活用しています。
システムを運用しながら内製で小規模開発しコストを抑える
こうした改善はすべて、社内の事情に精通した村岡さんが業務に合わせたシステム構築を内製した結果得られたもの。システムベンダーに外注するとなれば多額のイニシャルコストがかかり、外注先に業務内容や困りごとをゼロから説明するコミュニケーションコストもばかになりません。
「業務改善のアイデアが思い浮かんだら、すぐに『こんなことができないか』と村岡とディスカッションし、できるところから進めてもらっています。まだまだ進化の余地があります」と金城さん。
村岡さんはITに特化した業務の経験があるがわけではなく、セールスフォース導入のきっかけも偶然ともいえるものでした。
「今使っているツール(セールスフォース)は、過去に他社も含めたコンソーシアムであるプロジェクトを推進した際、支給されて使っていました。予算が終了し解約しようとしたところ、営業担当者が来社。ニーズを尋ねられ『経営データのグラフを簡単に作りたい』と言ったら、その場で作ってくれたんです」(村岡さん)
これに触発された村岡さんは、更新月までの2ヶ月でどこまでできるか挑戦することに。サポートを得て、数字の取りまとめ業務の工数削減に取り組んだところ「今まで体験したことがないようなハッとする手応えがあった」と振り返ります。
前述したように、1、2時間かかっていた業務を1、2分に短縮できたインパクトは大きく、そこから「こんなこともできるのではないか」とアイデアが広がっていったそうです。
「ITツールは、総務全般を担当する中で基幹システムや会計ソフトを導入・運用したことがある程度でした。ITの専門知識がなくても、プログラミングが必要ないセールスフォースなら、ここまでできるんだと驚いています」(村岡さん)
とはいえ、多くの機能を取捨選択し、実際に作動させるまでには試行錯誤がありました。そのハードルを乗り越えるために、村岡さんは初心者に寄り添ったサポート体制をフル活用したそう。
「セールスフォースには勉強ツールがあり、クリアするとバッジをもらえます。最高ランクになりたいというモチベーションが湧いて、ゲーム感覚で取り組めました。また、サポート担当者が個別面談で対応してくれたり、行き詰まったタイミングで不思議と連絡をくれたりと、サポートが充実していたんです。頼るべきところは頼って、やり遂げられました」(村岡さん)
システム開発内製化のメリットは、イニシャルコスト(初期費用)削減の他にもう一つあります。それは、様々な機能を試験的に導入・運用し、合わなければすぐに停止・変更できることです。
「『ワークフロー』という社内コミュニケーション機能があるんですが、これは一度導入した後、やめました。顔を合わせれば一言で済むことまでデジタル化するメリットを感じられなかったからです。もしイニシャルコストをかけて導入していたら、もったいないからと使い続けていたかもしれません」(金城さん)
毎月定額の範囲内で試行錯誤し、自社に合わせて小規模に開発・試験運用をしながらメリット・デメリットを判断して少しずつカスタマイズする手法が珊瑚建材にマッチしていたようです。
社員のモチベーションや生産性を高める取組へ
「セールスフォースは中小企業に合っている」と話す村岡さん。沖縄で2社目となるパートナー認定を獲得し、今後は同じ建設業界の企業の導入サポートをしていきたいと意欲を示しています。
社内では、生産性や従業員満足度の向上にも活用できないかと検討しているそう。
「飲食店とコラボして優待券をQRコードで発行し、社員の誕生日にメールで送ってはどうかと考えています。また、将来的には、従業員一人一人が個別の重機を管理する編成を組み、重機ごとの稼働時間や燃費のデータを可視化してみたい。そうすることで、社員のモチベーションを上げながら生産性を高められるのではないかと考えています」
ITツールの活用により、経営におけるさまざまなデータ分析と可視化のメリットを享受している珊瑚建材。次なる展開にも注目です。