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3年かけて相続のノウハウをシステム化。全国の士業から頼られる企業に
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中城村南上原に本社を置く株式会社シナジープラスは、「相続で家族をもめさせない」「相続で優良財産を減らさない」「子や孫を将来お金で困らせない」をビジョンに掲げ、個人向け相続相談サービスを手がけてきました。創業者の亀島淳一(かめしまじゅんいち)さんは、2010年、金融商品や不動産投資商品を販売しないフラットな立場で、財産の分け方や渡し方をアドバイスするコンサルティング業を創業。2020年からは長年培ったノウハウのシステム化に挑み、3年の開発期間を経てリリースに漕ぎ着けました。
コンサルティング業に加えシステムベンダー業への業容拡大により、Bto CからBtoBへ、県内から県外へとマーケットを広げる狙いや、システム化の挑戦で経験したITツール構築の要点についてお話を伺いました。
BEFORE & AFTER
- 培った相続のノウハウをシステム化し、全国の士業や不動産会社に販売。導入した事業者は相談に来た顧客に相続の「分け方」に関するサービスを提供可能に。顧客へのコンサルティングのみならず、システムベンダーとして導入法人からの月額利用料でも継続的に収益を上げる
相続手続きの前に決めるべき「分け方」の相談先が不足している
シナジープラスが事業領域にしてきた相続マーケットでは、一般的には士業が各種手続きや相続税の節税・納税の相談を受け付けています。ところが、一般的に士業は「分け方」まではアドバイスをしないため、特に分け方が難しい不動産が財産に含まれている場合、相談先が不足しているのが現状。実際に、裁判所が示す遺産分割事件(相続がトラブルに発展したケース)の8割が不動産ありのケース。亀島さんがこの課題に着眼した背景には、自身の原体験がありました。
「20代の頃に実家の相続トラブルを経験しました。家族がもめたことを嘆くおばあの悲しそうな背中が忘れられません。社会人になって、相続にも関係する不動産や金融の業界で働いてきましたが、『相続税対策』や『節税』を謳う不動産投資や金融商品は数あれど、『もめないこと』をゴールにするサービスは見当たりませんでした」
一方で、分け方で悩むのは相続当事者だけでなく、相談を受け、困っている依頼人を目の前にした士業や不動産会社も同様です。
こうした需要に対して、シナジープラスに在籍するコンサルタントの手数が足りずサービスを提供しきれていないという課題がありました。
株式会社シナジープラス 代表取締役 亀島淳一さん
コロナ禍がきっかけとなり、ITを活用した業容拡大を決意
2020年、コロナ禍が広がる中、亀島さんはかねてから課題ととらえていた、需要に対してサービスを提供しきれていないという課題の解決に向けて、ITを活用した解決策の創出に乗り出しました。
先行する類似サービスには、相続税のシミュレーションソフトがありました。ところが、不動産価値を分析する際に相続税評価額や時価しか見ていないなど、シナジープラスが実績を上げてきたサービスクオリティを満たすものはありませんでした。そこで、システム開発会社に依頼し、シナジープラスがゼロベースでディレクションして開発することを決めたのです。
「不動産価値の査定に加え、金融資産の状態、それらに対してかかる相続税額、相続人それぞれの家庭の子どもの数や将来にわたる経済状況。
こうした数字を正しく認識することが重要ですが、ばらばらでは全体像が見えてきません。まずは、被相続人であるお客様に全体像と将来像を理解していただき、見かけの平等ではなく公平さを重視した分け方に納得していただくことが不可欠です」
そのためには、単に数字が算出できるだけでなく、見やすく直感的な理解を促せるような視覚化の仕組みや、説明の論理展開に沿った情報の表示といった点も重視し、作り上げてきたコンサルティングのロジックがそのまま再現できるものでなければならない。そう判断した亀島さんは、途中で開発会社を変え、完成度にこだわり抜きました。
こだわり抜いて独自のコンサルティングノウハウをシステム化
「シミュレーションの数字を算出して並べるだけなら、表計算ソフトでも作れます。でも、我々のコンサルティングはそれでは再現できません。シナジープラスのコンサルティングは『親子三代の幸せをサポートする』とホームページなどにも明記しています。これは、目の前の相続や節税だけでなく、長い時間軸でご提案します、という意志なんです。」
「相続人である子どもたちも、自分たちのライフプランを見られるので、『だったらこの分け方でいいよね』と納得していただけます。漠然と分けて遺言書を書いて渡すと、『自分はこの財産がよかったのに、どうして?』といった話になりがち。定量的な根拠を可視化することで、気持ちの面でもすっきりして将来に禍根を残さずに済みます」
相続人世帯の平均余命までの家計収支のシミュレーション画面。相続財産から得られる予測収支も計上(数字はダミー)
コンサルティングの実績を重ねる中で、「子どもたちの漠然とした将来不安がもめる原因になりやすい」という知見を得たことから、相続人それぞれのライフプランにまで踏み込んでシミュレーションをするようになった亀島さん。
開発したシステムにはこうしたノウハウを反映し、相談開始時は目先の相続税が意識の大半を占めている顧客を”納得解”に導くロジックを、誰でも自動的に組み立てられるよう設計しました。
完成したシステムは、基本的に一つの画面でコンサルティングが完結できる仕様を実現。財産の額を増減させたり、別の資産に組み替えるといった入力操作で、複数の分け方のパターンを提示し比較検討できるようにしました。
ITの越境力を活用し、日本全国へマーケットを拡大
開発の際には、コンサルティング実務者が開発担当者となって開発会社とディスカッションを重ねました。
「完成度を高められたのは、あるシステムエンジニアの方にたまたま出会えたことが大きいです。金融機関向けにライフプランのシミュレーションシステムを構築した実績をお持ちだったのですが、コンセプトを説明したところ『こんなにお客様に寄り添って考えられたシステムは見たことがない。社会にいいものを残す仕事だから尽力したい』と参加してくれました」
こうしてできあがった相続コンサルティング支援システムが「SIPS(シップス)」。日本全国の士業や不動産会社に向けたテストリリースを経て、販売を開始しています。
このシステムが目指すのは、これまで手続きの代理・代行や物件の管理に留まっていた士業や不動産会社のサービスを、総合的な相続計画プランニングサービスにアップデートすることです。
「特定の金融商品や不動産商品を売るために相続に関わろうとする会社にはSIPSを販売しないと決めています。システムを売ることではなく『もめない相続』を広げることが目的だからです。
システムを活用したコンサルティングマニュアルも作成中。システムを使う前段階で重要なヒアリングをサポートするアプリも開発し、研修制度を整え、システムを導入していただくパートナー各社には我々が培ったノウハウを余すところなく提供します」
コンサルティングからシステム販売に舵を切っても、「親子三代の幸せをサポートする」という理念をぶれさせない亀島さん。理念へのこだわりが、優秀なエンジニアとの出会いと唯一無二のシステムを生み出し、ビジネスにおける差別化にもつながりました。
亀島さんとSIPS事業担当者で執行役員の事業戦略室長 林拓司(はやしたくし)さん
「現在、プロモーションのための資金調達を計画中ですが、あるベンチャーキャピタルの方に『これは見たことがない。プロダクトのレベルが高い』と評価いただきました。IT導入補助金の対象にも認定いただき、驚いています」
今後は、コンサルタントに加えてエンジニアも採用し、機能のアップデートも内製化する計画。コンサルティング会社からシステムベンダーへと変貌を遂げ、株式市場への上場を視野に資金調達にも取り組んでいます。
「DXやIT化とは、知識やスキルが平準化されて垣根がなくなり、誰もができるようになることだと思います。
だからこそ、誰のため、何のためにITツールを使うのか。平準化された知識やスキルの上にどんな独自性やアイデアを加えるのか。お客様のお困りごとにフォーカスして解決策を編み出す創造性がますます重要になっていくのだろうと思います」と亀島さん。
沖縄でゼロからスタートしたコンサルティング会社は、徹底した顧客目線で作り上げた強みにITをかけ合わせ、さらなる顧客価値と、自社の企業価値の向上に向かって快走しています。