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健診結果を紙管理からデータへ移行。時代にフィットする医療機関へ【友愛会健康管理センター】
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海を見渡すロケーションや心地良い空間作りでも知られる社会医療法人友愛会豊見城中央病院附属健康管理センター(以下友愛会健康管理センター)は、豊見城中央病院の健康診断事業を担う部署として1982年に発足しました。2010年に独立して現在の豊見城市豊崎へ移転、長寿県として知られた沖縄県の歴史を継承し、医療機関をはじめ自治体、民間企業とも協力して受診者の健康寿命を延ばすサポートを行うことを目指し業務に当たっています。
2023年4月にセンター長となった鈴木真(すずきまこと)さんは、「健康診断データを身近に置くことで健康への意識を高めたい」「各職員が追われている事務処理を効率化し、本来の業務に集中できる環境を作りたい」という思いから、業務デジタル化への一歩を踏み出しました。鈴木さんのお話から、センシティブな情報を取り扱う医療機関でのDXをどのように進めていくべきか、そのヒントを探ります。
沖縄の健康寿命改善と職員が本来業務に力を注げる環境を目指して
鈴木さんは、2023年1月に副センター長として友愛会健康管理センターに赴任。長寿県沖縄の健康寿命の低下に大きな課題感を持ち、また、職員が本来業務に集中できていない状況の改善が急務だと感じていました。
鈴木さん
「健康診断結果は日々の生活の指標になるデータ。でも、郵送されてきた際に一度見るだけですぐに忘れられてしまう場合がほとんどです。受診者がいつでも見られるデータとして持てるものにし、ご自身の健康に目を向ける機会を増やしたいと思いました。
同時に、医師や看護師をはじめとする職員がアナログな情報管理に時間を取られ、大変な思いをしている様子も日々目にしており、何とかしなければと感じていました」
友愛会健康管理センターが取り扱う健康診断データは年間約2万5,000件。そのすべてをプリントアウト・郵送していますが、センシティブな個人情報であるがゆえ、封入・郵送までのミスを防ぐためのチェックや確認作業が大きな負担に。120人分の結果を郵送するのにかかる時間を試算したところ、二人で約3時間でした。郵送コストも大きく、数百万円が必要になっているそうです。
健康診断結果がデジタルデータで届けば、受診者は自分の健康をより自分ごととして意識して過ごし、必要に応じ共有することで受診のストレスや費用も軽減されるメリットが得られます。また、事務作業の面では、プリントアウトして郵送する時間とコストを削減できることに加え、その過程で発生してしまうヒューマンエラーの予防にもつながります。
鈴木さんは2023年4月にセンター長に就任、二つの課題の解決の鍵である健診データのデジタル化へ踏み出しました。
リサーチから試験導入へ。決め手は画像共有機能と少額コスト
様々な人脈からの情報や医療系システム企業に話を聞いてのリサーチを行うこと約1カ月半。鈴木さんが着目したのは、今やほとんどの人の生活必需品となっているスマホで健診結果を管理・閲覧できる医療情報共有アプリ、NOBORI(ノボリ)でした。
鈴木さん
「今後導入を考えている予約や決済などの機能もあり、メッセージ送信も無料であることに加え、ほかのアプリでは難しかった検査画像を閲覧・共有できる機能があることがポイントでした。レントゲン、CT、MRI、エコーなど、健診や検査で得られる様々な画像データを受診者が持ち、他医療機関でも閲覧が可能になることは、同様の検査を省き、より早く的確な診断結果を得られることにつながります。今後様々な医療データを受診者自身が活用していくためにも、この機能は必須だと考えました。
私たちの側の導入・ランニングコストが高額にならないことはもちろん、受診者の負担は1年分のデータであれば無料、過去のデータを保管・閲覧する場合でも月額100円とリーズナブルなことも決め手になりました」
アプリのロゴと友愛会健康管理センターのロゴを使ったエコバッグのデザインコンテストなども企画し、職員が興味を持って前向きに導入に取り組めるような工夫も織り交ぜながら、導入の準備が進められました。
2023年9月、基幹システムとの連携調整を終え、まずは職員を対象に試験導入。
さらに人間ドックに訪れる医師を対象にアプリについて説明を行い、実際に使用してもらう試みも行ったところ、参加者の約60%の方が「便利だ」とアプリをダウンロードする結果に。紙の健診結果も欲しい、という声もありましたが、参加者の約40%からはアプリだけで良いという回答が得られました。
現在は実際に利用した職員の声からの改善点への対応、アプリダウンロードの際の本人確認のSMSを使った自動化を調整中。11月中旬には、一般受診者向けに導入が開始される予定となっています。
まずは職員の声を聞くことから。赴任3カ月で立ち上げたDXプロジェクトチーム
実は、アプリの導入は、各部署の管理職や担当者約10人からなるチームを中心に取り組んでいるDXプロジェクトの一部分。
目指すのは、医師や看護師が本来力を注ぐべき受診者への対応に集中できるよう、すべての業務を2025年4月までに完全電子化すること。その第一歩となるのが、今回のアプリ選定から本格運用を前提とした試験導入でした。
鈴木さんは、2023年2月にSWOT分析(企業や事業について、『強み』『弱み』『機会』『脅威』の4つの要素から分析する)を実施。センター長に就任した2023年4月には、約100名におよぶ全職員のヒアリングも行っています。
職員が具体的に何に困っているのか、改善点は何か。しっかりと声を聞くことでそれを明確にし、解決へ向けて動くためにDXプロジェクトチームを立ち上げたのです。
鈴木さん
「皆、課題感や『変えたい』という気持ちは持っていました。でも、どうすればいいのか、何から始めればいいのか、取り組むための資金はどうするのか…色々なハードルがあって、一歩を踏み出せなかった。必要だったのは、課題を整理し、目的を明らかにし、そのために何が必要かを考えること。その答えがデジタル化の場合もあれば、ほかの手段になるものもあり、そのままで良いものもあります。DXは業務をよりスムーズにし、働きやすい環境を作る手段のひとつ。目的ではありません」
職員の日々の業務に目を向け、ひとりひとりの声を聞く姿勢と、そこから浮かび上がる課題を整理し、解決する道筋を示すこと。
赴任から3カ月でプロジェクトチームを立ち上げ、それから6カ月でアプリを試験導入。驚くようなスピードでの進行を可能にしたのは、そうした鈴木さんの姿勢でした。
期待される導入の効果と今後。2025年の業務完全電子化に向かって
2025年4月の業務完全電子化を目指す取り組みの第一歩として導入された医療情報共有アプリ。健康診断結果120通をデジタル化することで、一人あたり1.5時間の事務作業時間削減を見込んでいます。
鈴木さんは、医療データを手元に置く環境を作ることについて、医療情報リテラシー(ヘルスリテラシー)の向上につながると感じています。
鈴木さん
「世界的に見て、日本のヘルスリテラシーは高いとは言えません。データを医療機関だけが保管し、個人で保管・活用することが難しかったこともその一因。医療データを受診者の手元に置くことで、それを変えていくことにもつながると考えています」
DXプロジェクトチームは、補助金の活用も視野に入れながら、基幹システムの刷新に向け調整中。「センター内から紙をなくしたい」と鈴木さんが話す通り、現在はFAXで受け付けている予約のオンライン化などへの準備も進められています。スマホひとつで受付や受診・支払を済ませ、すべての情報を確認できる。そんな未来に向け、友愛会健康管理センターは着々と歩んでいます。
鈴木さん
「まずは何のために行うのか、目的を明確にすること。DXには色々な方法があるので、自分たちにはどれが合っているか、しっかり選別することが大切です。
それから、DXにはたくさんの人が関わりますし、たくさんの人の力を借りなければできないものです。関わるすべての人がWin-Winの関係になるよう、自分の利益だけでなく、他者にとっても利益になるような方法を考えることでうまく回っていくものだと思います」
こうした考え方のもとでDXを進めながら、センター内の改革はもちろん、スポーツジムや飲食店など周辺企業の力も借りながら、受診者がより健康になるために行動を変えるサポートにも取り組みたいと話す鈴木さん。
今後、友愛会健康管理センターが実現していくであろう新しい医療機関の姿は、私たちの期待をはるかに超えるものになるかもしれません。