- 事例紹介
- IT活用
株式会社島袋は、約3万点の工具・金物を扱う県内最大手の卸売事業者です。2017年、基幹システムのリプレースを機に、属人化しがちだった業務のDXに着手。会社としてPRできるポイントになるのではとDX認定制度の取得にも取り組み、2022年7月、見事経済産業省からDX認定事業者(※1)に認定されました。
地域の建設業・建築業を包括的に支える企 業になることを目指してDXに取り組む先進事例を、情報企画課の嘉陽憲史(かようのりふみ)さんと高良義伸(たからよしのぶ)さん、総務部の比嘉将人(ひがまさと)さんのお話から紐解きます。
※1 DX 認定事業者:経済産業省からデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の体制が整っている企業として認定されるもので、県内ではOTNet株式会社と株式会社おきなわフィナンシャルグループに次いで3社目。県内流通業界では初めての認定となった
商品を仕入れて顧客に届けるまでの業務プロセスを全て見直した
島袋が手がける卸売業では、メーカーが製造したモノを仕入れて倉庫に保管し、小売店から注文に応じて届ける一連の作業を、迅速かつ品揃え豊富に運用することが重要です。このため、島袋のDXは、以下の業務フローでボトルネックとなっていた「継ぎ目」を洗い出すことで実現しました。
〈卸売業の業務フロー〉
仕入れ発注→入荷と検品→在庫として保管→受注→伝票発行と出荷→納品
DXという言葉が浸透する以前の2017年から、基幹システムのリプレースを機に「紙からデジタルへ」のシフトを企図していた中で、まず着目したのが紙の台帳でした。
「ボトルネックのひとつが紙の台帳でした。台帳とは、仕入れ発注の記録と小売店様への営業や受注に使っていた全商品のリストです。弊社では約3万点を扱っていますので、分厚いバインダー2冊ほどになります。新商品の追加や価格改訂の度に変更があったページを印刷し、差し替えるという作業が発生していたんです」と、情報企画課の嘉陽さんは話します。
台帳をデジタル化してタブレットで閲覧できるようにすることで、更新も持ち運びも簡単になりました。これにより、受注後に倉庫から商品を見つけて出荷するピッキング作業を誰もができるようになり、受注から納品までのスピードが上がりました。
「広大な倉庫のどこに商品があるか、ベテランになれば経験から見当がつきますが、新任スタッフには難しかった。これが、タブレットを持ち歩きながら確認しつつたどり着けるようになり、属人性を排除できたんです」
また、仕入れ発注業務においては、紙の台帳への書き込みと基幹システムへの入力という二重の作業が発生しており、転記ミスも起きていたとのこと。デジタル台帳と基幹システムを連動させることで、作業のダブりとミスのリスクも解消できました。
さらには、棚卸しにも大きな影響が。
「紙の台帳だった時、1年に1度の棚卸しは苦行でした。台帳上はメーカーごとに商品が並び、倉庫の棚はメーカーではなく品目ごとになっています。棚卸しは台帳に合わせてメーカーごとに在庫の数を確認・記録していくため、2人1組で棚から棚へと1日中歩き回っていました。台帳をデジタル化したことで紙に印刷された並び順に合わせる必要がなくなったため、棚ごとに分担して進めれば良くなった。楽になっただけでなく、社員総出で8時から18時までかかっていた作業が15時頃には終わるようになり、9時間から6時間へと大幅に削減できました」
新システム導入後の棚卸しでは、商品ごとに割り当てたバーコードをモバイルスキャナーで読み取り、その場で在庫の数を入力しています。以前は手書きで記入した台帳を元に総務と情報企画課の担当者が約1週間かけて基幹システムに入力していましたが、この作業も必要なくなりました。
デジタル台帳とモバイルスキャナーは、顧客である販売店に出向いて注文を取る営業担当者の業務効率化にも寄与しています。
「以前は、営業担当者は分厚いバインダーを2冊車に積んでいました。客先から倉庫に電話をして在庫を確認する際、先ほど申し上げた属人性の問題で探すのに時間がかかり、サービス品質にも改善の余地がありました。」
受注すると、会社に戻って紙の注文表を総務経理担当者に手渡し、受け取った担当者が基幹システムに入力。営業担当者はプリンターの前で伝票の出力を待ち、販売店に届けていました。新システム導入後は、販売店で受注したその場でモバイルスキャナーから基幹システムに情報が入力できるようになり、伝票の出力も営業担当者の移動時間に完了できるように。プリンターの前に並ぶ時間をカットでき、営業担当者30人の業務時間が1人あたり約15時間/月削減できました。削減した時間を使って顧客とのコミュニケーションを増やすなど、サービス向上につながっています。
また、1件の受注に対して営業担当者が注文表を書き、総務経理担当者が入力する二重作業に起因するヒューマンエラーもなくなり、受注から出荷までの担当者間連携がよりいっそう円滑になっています。
設計者が現場に密着し、現場の動きに即したシステムを構築
目に見えて成果を上げている島袋のDX。成功の秘訣はシステム構築のプロセスにありました。
「現場の大変さをシステム開発者に言葉だけで伝えようとすると、どうしても温度差が発生します。そこで、依頼したベンダーさんと話し合い、システム設計担当者2人に2カ月間現場に密着してもらいました。営業担当者と一緒に顧客を訪問し、社内業務も担当者の横について業務プロセスの分析から入ってもらったんです」
慣れ親しんだ業務プロセスの改善の余地を、システムの知識がない現場担当者が自ら発見するのは難しいと判断。業務に密着したシステム設計者からプランを上げてもらい、それを嘉陽さんや高良さんがチェックして、不足があれば再度現場に戻り理解を深めてもらうことに時間をかけました。
「プランが上がってきてから完成まで、1年ほどかかりました」と話すのは、ベンダー側の開発者として関わった後、転職して島袋に入社した高良さんです。
「今回のシステムの目玉は、『販売店で注文を取る時にモバイルを使う』という点でした。『注文データをシステムに即反映して、ピッキングもリモートでできる流れを作る』のは言うは易しです。事前に現場に密着して練り上げられた設計書通りに開発しても、運用テストで現場の方から『動きと合わない』と要望が出て作り直しになった部分もありました」
課題になったのは、出荷作業のスピード感だったそう。紙の台帳は課題は多かったものの、商品のリストを紙の上で一度に見渡して探せるメリットがありました。出荷する商品のバーコードをスキャンするより目で探す方が速いとの意見が出て、紙ベースに近い形で探せるよう仕様変更するなど、ブラッシュアップを重ねました。
「DX前の作業をどんなに観察しても、新しいシステムに人間がどう対応するかまでは読み切れません。新しいものを作るには、構築の過程である程度の作り直しが発生する覚悟も必要です」と嘉陽さん は振り返ります。
DXの肝はトップの覚悟。人事評価制度も変更
「システム設計者による2ヶ月にわたる現場の観察や仕様変更で発生する費用を捻出できたのは、トップがDXをやり遂げる覚悟を持っていたからです。
もともと、ゼロから組み上げるシステム構築では予算はあってないようなもの。
金額が上がる可能性は、初めから島袋社長に伝えてありました。それでも、見積りが出てきた時は驚いて『最低でも10年使えるものにしてよ』と釘を刺され、逆にすごいプレッシャーでした(笑)」(嘉陽さん)
トップの本気度は、構築したシステムを社内に浸透させる上でも大きく影響します。
DXによる業務効率化を徹底するには、仕入れの発注、検品と出荷、受注と納品に関わるすべてのスタッフがデジタル台帳やモバイルスキャナー使いこなす必要があります。このため、島袋社長はDXを推進する意志を人事評価制度にも反映させました。
「弊社では現在、システムを使いこなしているかが査定に影響します。『情報企画課が何かやっている』ではなく、全社員がDXを自分ごととして捉えることが業務効率化を目指す上で最も効果的だと思っています」(比嘉さん)
掲げた長期ビジョン実現に向け、着実に進む
このようにトップである島袋社長が自ら音頭を取って進める取り組みは、DX認定事業者となったことにともない策定された2030年までのDX推進計画にもとづいています。
そこに掲げられているのは、生産性の向上と新しい価値の創出を目指す長期ビジョン。短期、中期、長期の3段階の指標を設定し、部署を横断した協力体制を整えています。
現在は短期指標に当たる販売管理システムの社内への浸透を図っている段階ですが、WEB受注システム構築という中期指標を見据えた取り組みも始まっています。
在庫データのリアルタイム性を追求し、次なる展開へ
30人の営業担当者の業務時間を合計450時間/月削減し、月に1度の棚卸しでは全社員221人の業務時間が合計663時間、総務経理担当者の入力業務を40時間カットするという成果を上げた今、次なる目標は受発注情報のデジタル化を完遂し、在庫のリアルタイムデータを活用した新サービスを展開することです。
「営業担当者が販売店で受注する分はデジタル化できてきましたが、FAXと電話での受注はアナログのまま残っています。朝、営業担当者に電話で注文が入り、倉庫の在庫から出荷してすぐに届けるケースなどで、誰がいつデジタル台帳に入力するのか決まっていません」
既存の業務プロセスを省略した結果、宙に浮いてしまった業務を誰が担当するのか、各部署にとって納得感のある新体制を作るため、嘉陽さんと比嘉さんはDX推進会議を設けました。
「役職者をメンバーに、それぞれの課から意見を吸い上げて会議の場で共有してもらっています。中には紙ベースでやってきた仕事が変わることを受け入れがたく感じる人もいます。そんな場合でも快く使ってもらうためには、どんな業務設計やコミュニケーションが最適なのかを1~2カ月に一度話し合っています」
人がシステムに合わせるのではなく、人に合わせてシステムを作り、道具として使いこなす。システム開発でも大切にしていた方針は、浸透のプロセスでも踏襲されていました。
今後は、デジタル化を徹底することで得られるようになるリアルタイムの在庫データから市場の傾向を分析し、新しい顧客価値につなげていくとのこと。
沖縄におけるDXの先頭集団を走る島袋の今後に要注目です。
【PROFILE】
会社名:株式会社島袋
代表者:代表取締役 島袋盛市郎
所在地:901-2131 沖縄県浦添市牧港5−7−1
TEL:0980-878-1118
内容:金物・工具の卸販売
設立:1971年12月(1951年創業)
従業員数 : 221名