- 事例紹介
- IT活用
『沖縄の魅力を「カタチ」にする。』をテーマに、企業のノベルティグッズやオリジナル商品、お土産などの企画からデザイン、製造までを請け負う琉球ワークス株式会社(以下、琉球ワークス)は、 本土企業の子会社として2015年に設立。2018年に資本関係を解消して独立、2019年に本社を名護市に移し、現在に至ります。2024年現在、取扱商品は1,600点。約700にもおよぶ取引先には沖縄県内大手企業も多く名前を連ねています。
コロナ後の需要回復に伴い、琉球ワークスは『小規模事業者等デジタル化支援補助金』のITツールの導入支援を活用し、受発注システムを導入。売上3倍、生産性7倍という大きな成果を挙げています。
目をみはるような成果の裏側には、どんな工夫や努力があったのでしょうか。代表取締役社長の岩月昭雄(いわつきあきお)さん、総務・経理・マネージャーを務める比屋根清香(ひやねさやか)さんのお話からは、「使いやすさの追求」「メリットの明確化」の二つの要素が見えてきます。
非効率・エラー続出のアナログ受注確認作業。需要回復で「システムなしでは対応できない」
琉球ワークスは、コロナ以前は取引先からの受注に電話やFAXで対応していました。色、柄、サイズも明記されない「Tシャツ5枚」といったものもある注文内容の確認と在庫確認作業は、担当者3~4名で半日がかり。ピークとなる夏場にはそれでも追いつかず、事務所にいるスタッフ全員が対応に追われていたそうです。
「どう考えても非効率」と感じながらもシステム導入に踏み出せなかった理由を、岩月さんは次のように語ります。
岩月さん
「2018年頃から取引のある仕入業者さんが受発注システムを導入し始めており、私たちも仕組み化できないか、と考えていました。でも、大企業が多かったこともあり、話を聞くと自社開発している場合がほとんどだったんです。開発期間やコストを考えると非常に難しく感じ、二の足を踏んでいました。また、クラウドツールでそれができるかもということには考えがおよびませんでした」
システムエンジニア(SE)として外資系IT企業で勤務した経験を持ち、現在琉球ワークスの総務・経理を担っている比屋根さんは、様々な解決策を検討するものの、これという答えを見出せずにいたと言います。
比屋根さん
「受発注専用アプリ開発も考え、そのためのリサーチも行いましたが、人員もサーバーも必要で、それなりのコストや開発期間がかかります。同時に、『確認・照合作業はパート雇用などでも対応できるのでは』といったシステム化とは真逆の考えも浮かび、これといった答えが見えず悶々とする日々でした」
こうした状況を一変させたのは、沖縄の観光業に大きなダメージと変革の機会をもたらした新型コロナウイルスでした。コロナ禍での大幅な売上・人員減、コロナ後の急激な需要回復。スタッフの約半数が退職していた中、岩月さん、比屋根さんは「今後、これまで通りのやり方では対応できなくなる」と痛感します。そんな折に名護市商工会議所の紹介で知ったのが、ITツールの導入費用補助のみならず、ツール選定から伴走支援する『小規模事業者等デジタル化支援補助金(沖縄県商工労働部中小企業支援課事業。以下、小規模デジタル)』でした。
充実の選定支援で「目から鱗」のツールと出合い、導入・活用
小規模デジタルの支援は、申込時に記入するアンケートの回答内容にもとづくヒアリングから始まりました。支援担当者が琉球ワークスの課題にフィットする受発注システムツールとそれを取り扱うIT企業をリサーチして提案、4種のITツールのプレゼンを受けたそうです。その中から琉球ワークスが選んだのは、企業間取引であるBtoBに特化したWeb受発注システム、『Bcart(ビーカート)』でした。
比屋根さん
「支援担当の方がしっかりヒアリングしてくださり、私たちの課題や実現したいことに向けた提案をスピーディーにいただけて本当に助かりました。
Bcartは、ランニングコストを低く抑えられること、取引先ごとに異なる商品・価格表示を設定できることが魅力でした。Web上のショッピングサイトを利用したことがあれば迷わず使える、わかりやすい操作画面も導入の決め手になっています」
岩月さん
「まさに目から鱗の提案で、支援を受けていなければBcartには出合えませんでした。クラウドでもできるということにも気づけなかったですし、私たちだけでは半年かけても探せなかったツールです」
受発注システム導入に際し、必須となるのが取扱商品の登録。2022年当時1,000点の商品を取り扱っていた琉球ワークスは、Bcartと連携するIT企業による有償のサポートを利用しました。
画面表示も比較的自由に設定することが可能だったため、比屋根さんはわかりやすく使いやすい画面表示にこだわりカスタマイズ。約1時間のミーティングを週1回、約半年間継続して先方の営業担当者・SEと密な連携体制を築き、課題感を共有することで的確な提案も引き出し、構築を進めました。
スタッフ全員が受発注業務の非効率さを実感していたことに加え、若手の多い環境もあり、社内では、システム導入への抵抗感はゼロ。むしろ「まだ運用は始まらないんですか」と何度も質問が来るほど待ち望まれている状況で、社内の運用開始は非常にスムーズに進んだのだそうです。
一方で、小売店への利用浸透には時間をかけた丁寧な対応が必要でした。
こだわった使いやすさとメリットの提示で90%の取引をアナログからデジタルへ
琉球ワークスの商品を取り扱う小売店には、古くから続く小規模のお土産店も多数。オーナーやスタッフがデジタルツールに不慣れな場合もあり、電話・FAX注文からWebにアクセスするBcartからの注文への移行は決して簡単なものではありませんでした。当初は「(発注のために)こんなシステムを使うなんて」といった批判的な声も聞かれたそうです。
まずはデザイナーがわかりやすく工夫を凝らして作成したマニュアルを手に、営業担当者が何度も足を運んで丁寧に説明・操作レクチャー。注文内容が履歴として残り確認できること、電話がつながらず注文できないといったこともなくなるといったメリットを伝えることに加え、「Bcartで注文する商品を探すのが大変」という小さな不満を見逃さず、新たな機能の追加も行いました。
比屋根さん
「商品を探して注文する手間を省くために、携帯電話のカメラに商品のバーコードをかざせば当該商品の注文画面が表示される仕組みをオリジナルで作ってもらいました。注文したい商品のバーコードをかざして数量を入力するだけなので、デジタルに不慣れな方でも簡単に操作できます」
2023年3月の運用開始から約1年半となる2024年8月現在、独自システムで発注を行う大規模企業、インターネット環境のない小規模店舗といった少数の例外を除き、90%以上が電話やFAXからBcartへの移行を終えています。
操作に慣れないうちは営業が訪問した際にサポートしたり、代行で入力したりすることもあったそうですが、時間を追うごとにそういった支援も不要になっているそうです。
この結果を導き出せた要因は、ツールの選定、操作画面のカスタマイズの段階から「使いやすさ」を第一に妥協せず取り組んだ姿勢。さらに、小売店がBcartを使用するメリットを提示できたことです。
マニュアルや操作説明といった地道なコミュニケーションに加え、小売店の利用を妨げる要因ともなる「探しにくい」という不満を「探さなくていい」という便利さへと転換していったことは、これまで慣れ親しんだ注文方法を変えるストレスを緩和し、利用浸透を加速する大きなポイントになったと言えます。
Bcartと同時期に、出荷や在庫管理といった倉庫業務を委託している会社からの提案を受けて導入した在庫管理システムも順調に機能。リアルタイムの在庫数確認や配送先ラベルの自動生成も可能になり、手作業での管理が原因で起きていた商品の種類や数量、配送先の誤りといったヒューマンエラー、在庫切れも激減しました。
売上3倍、労働生産性7倍。沖縄へのさらなる利益還元を目指し新規事業にも着手
こうした取り組みは、売上3倍、スタッフ一人当たりの労働生産性7倍という目覚ましい効果をもたらしました(2019年との比較)。残業時間も88%減、有給消化率はほぼ100%となり、営業の方法や仕事内容にも大きな変化が起きているのだそうです。
コロナ以前、沖縄本島内の小売店には担当営業が納品に出向き、その際に新商品の案内や受注対応を行っていました。しかし、コロナ禍で非接触・非対面の流れができたこともあり、納品は直接納品が効率的・効果的な店舗を除き倉庫からの直送へと移行。顧客である小売店と相対する時間は大幅に減りましたが、Bcartはそれを補って余りある営業効果を発揮している、と岩月さんは感じています。
岩月さん
「注文や在庫数確認のため、小売店の担当者はBcartをほぼ毎日開いています。商品在庫数はもちろん、新商品の告知やセールといった情報は毎日更新しています。小売店ごとに表示をカスタマイズでき、顧客に合わせた情報を毎日ダイレクトに届けられるので、直接訪問や電話での営業は不要になりました」
Bcartは受注だけでなく新規取引先獲得にも変化をもたらしました。Bcartからの新規取引申込は毎月7件以上のペースで増加し、2022年に約500社だった取引先は2024年8月現在698社へ増加。従来は申込から1週間ほど調査を行い、決定していた与信枠もBcart連携サービスにより数時間程度で自動設定されるため、効率的に取引先を増やせるようになったのです。
得られた時間と利益をもとに進めているのは、企画提案型新商品の開発や新業態への進出。沖縄バヤリースや具志堅用高さんのオリジナルグッズの企画制作を実現、2024年夏中にゲストハウスの運営の開始を予定し、沖縄県内企業2社との間ではM&Aに向けての話し合いも進んでいます。
コロナ禍の厳しい中、会社に残ってくれたスタッフへの感謝の気持ちもあり、2023年秋には13%のベースアップを実施。従来2カ月分だった賞与を2023年以降3カ月分に上積みし、2024年6月には再度4.5%のベースアップも行っています。
岩月さん
「2023年のベースアップは、コロナ禍の厳しい状況でも残ってくれたスタッフへの感謝の気持ち。今後も年1回のベースアップは続けていく予定です」
「仕事をさせてもらっている」と折に触れて語り、沖縄という土地そのものへの感謝も心に抱く岩月さん。「できる限り沖縄に利益を還元したい」という創業時からの思いは、確実に形となって表れています。